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Book/Film Reviews

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書評集
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#英文法

[書評] 補語の本質が通常補語としてのみ説かれるものと髣髴の間に連なること

細江逸記『目的補語としての副詞』(盛岡ペリカン堂、2018) 初出は「英語青年」第84巻第1号(1940年10月1日)。前著の『主補語としての副詞』とあわせ読むべき論文。 『主補語としての副詞』では、〈副詞が主補語として用ひられる場合〉を扱った。 例えば、 That's verily. (Shakespeare, 'The Tempest', 2.1.321) (それは本当だ) のような用例の verily について、〈古来多くの学者は、補語は名詞にあらざれば形容詞

[書評] 主補語としての副詞

細江 逸記『主補語としての副詞』(盛岡ペリカン堂、2018) 刮目して生きた英語の実際を見よ 英文法学者の細江 逸記が副詞補語について「英語青年」1940年4月号に書いた論文。なお、英語学者、英米文学者向けの雑誌「英語青年」は、1898年に創刊され、百年以上続いたが、2009年に休刊した。 『主補語としての副詞』は小著だが、本書に挙げられる数々の用例、すなわち主格補語(subjective complement)に副詞が用いられる例などに関心をいだくひとには興味深い本だ

[書評]英文法を知ってますか

渡部昇一『英文法を知ってますか』(文春新書、2003) 文法史に英文法を位置づける 題の問いに対し「知ってます」と答えた人の大半が、読んだあとに、本書がいう意味での英文法は知らなかったと実感するのではないか。なぜなら本書は文法の歴史のなかで英文法を捉えようとするものであるからだ。 英語の歴史については考えたことがある人でも、文法の歴史という観念はなかったのではないか。そういう問題意識は、目の前の言語だけを見ている場合はもちろん、過去の言語を見ている人でも持ちにくい。言語

[書評]英文法の「なぜ」

朝尾幸次郎『英語の歴史から考える 英文法の「なぜ」』(大修館書店、2019) イギリス英語で 'I have class' と言えるか? 例えば、〈イギリス英語で 'I have class' と言えるか?〉のような質問に本書は答えてくれるかというと、結論から言えばそうでもない。本書はむしろ、〈不定詞に to がつくのはなぜ?〉のような問いに答える文法書。 どういうことか。前者は現代英語の知識と現代英国の常識とがあれば考察が可能。対して、後者は英語の文法の歴史をひもとか

【書評】『アングロ・サクソン文明落穂集 9』

渡部昇一『アングロ・サクソン文明落穂集 9』(広瀬書院、2019) 「英語教育」(大修館書店)に2000年9月から2004年9月に掲載されたエセーを収録した書。副題に〈伝統文法以外の方法で、日本の学生に英語を読み、かつ書く力をつける言語学はない。〉の言葉が添えられている。必ずしもその話題のみでなく、交友記の類も交じる。どれも英文法や教育や文献学に対する著者の含蓄と愛情とユーモアがこめられており、読んでいて楽しく、刺激を受ける。 伝統文法を教育にどう採入れるべきかという問題