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Book/Film Reviews

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書評集
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2024年2月の記事一覧

[書評] 世界一美しい日本のことば

矢作直樹『世界一美しい日本のことば』(イースト・プレス、2015) 不安や後悔は「幻」であること 日本人が知っておきたい47のことばを収録した本。ばらばらな内容でなく、著者の思想が一貫して流れ、読み進めるうちに個々の言葉を有機的につなぐ、ある考えがあることが感じられてくる。 例えば、次のようなことばが取上げられる。 ◎おかげさま 人間関係をなめらかにする極意 ◎水に流す 「しつこい怒り」を手放すシンプルな法 ◎無常 この世のすべては移ろいゆく ◎住めば都 「執着」を手

[書評] 伊勢物語

坂口 由美子編『伊勢物語』(角川学芸出版、2007) 歌を詠む者は皆『伊勢物語』を熟知していた 源氏物語に大いに影響を与えた伊勢物語。その秘密を探ろうと本書を読んだら、逆に、伊勢物語じたいのおもしろさの虜になってしまった。 本書では伊勢物語のおもしろさとそれを成りたたせる時代背景がわかりやすく書かれ、伊勢物語をよりおもしろく味わえるようになる。伊勢物語が同時代および後世に広く深く影響を及ぼした理由は、あまりにもおもしろく魅力にあふれた作品であるからだということがよくわか

[書評] 命には続きがある

矢作直樹、一条真也『命には続きがある 肉体の死、そして永遠に生きる魂のこと』(PHP研究所、2013) 救命医師と葬儀のプロという異色の顔合わせによる対談 生と死の現場に長年身を置いてきた二人が、自らの体験や思索などを通じて培った死生観を縦横に語り合う。 二人はそれぞれの職業上の経験をふまえて語ることも多いが、本に書かれた興味深い死生観に言及することもある。 二人が言及し、引用する本をみると、本書での議論が思い出される面がある。そこから広がる世界は本書の範囲を超えて、

[書評] 新編 人生はあはれなり… 紫式部日記

小迎裕美子『新編 人生はあはれなり… 紫式部日記』(KADOKAWA, 2023) 才女批評と式部の自意識 『新編 本日もいとをかし!! 枕草子』では清少納言派だった著者が本書では紫式部派になっている。 それでも、何かにつけて、この二人の女性作家を著者が比較することはとまらない。紫式部本人も、清少納言は、他の作家たちと並んで、意識する対象だったのはまちがいない。 本書は紫式部日記をベースに、軽快なタッチで平安時代の宮中の雰囲気や、その周辺の人々の動きを、それぞれの思惑

[書評] 光明瞑想

サティヤ・サイ・ババ『サイ ババの光明瞑想』(サティヤサイ出版協会、2011) シュリ サティヤ サイババがすべての人々に推奨している光の瞑想方法 東山彰良の『わたしはわたしで』を読んでいて突然サイババが出てきた。何の脈絡もなく。しかし、サイババのことばは主人公に影響を与え、ある行動を起こさせるきっかけとなった。 べつに東山氏が日頃バジャン(サイババ賛歌)を熱心におこなっているというわけではおそらくなく、サイババの金言をネットから拾ったという体裁になっている。 それで

[書評] 新編 本日もいとをかし!! 枕草子

小迎裕美子『新編 本日もいとをかし!! 枕草子』(KADOKAWA, 2023) あるある感満載のコミックエッセイ版枕草子 枕草子の約300編の章段から抜粋し四コマ漫画ふうにほぼ一題一頁でまとめ、エッセンスをさっと読めるようにしたもの。著者からみて共感する段のみを集めてある。 確かに、あるあると思われる観察がたくさんあり、現代人にもわかる部分が多い。以下、気になった段を挙げてみる。 この段には〈シキブが同じ状況で書いている日記が全然ちがっておもしろいです。〉とのコメン

[書評] 天皇

矢作直樹『天皇』(扶桑社、2013) 神祇伯白川家に伝承された神道と延信王 本書(2013)執筆のころ、著者は東京大学医学部救急医学分野教授として、天皇の治療に関る医師団に属した。そんな著者ならではの貴重な証言の数々が含まれる書。 内容としては、『人は死なない』(2011)に既出の九死に一生を得た登山時の体験や、後に『日本史の深層』(2018)に展開される独特の史観などを含むが、本書には貴重な白川家の歴史に関する記述がある。 白川家のことを神祇伯白川家と呼ぶが、そのわ

[書評] 神作家・紫式部のありえない日々 1巻

D・キッサン『神作家・紫式部のありえない日々 1巻』(一迅社、2022) 紫式部(生没年不明、10-11世紀)が中宮彰子(988-1074)の家庭教師として宮中で過ごす日々を軽快な漫画で描く。その間に式部は源氏物語(執筆年代不明、11世紀)の創作を続ける。宮中の人びとのようすが内面を含めて現代的に描かれ、楽しく読める。宮中で源氏物語が回し読みされるさまを、現代の同人誌とそのファンに喩えるのがおもしろい。 評者は次の内容を自分用のメモとして脳裏に入れつつ読んだ。人物関係は、

[書評] わたしはわたしで

東山彰良『わたしはわたしで』(書肆侃侃房、2023) にじむ人間像の織成すドラマ 東山彰良が2016年から2023年にかけて書いた六短篇をまとめた書。 東山が直木賞をとった『流』(2015年)の登場人物、暁(シャオ)叔父さんの後日談である 'I Love You Debby'(2016年1月10日、講談社「現代ビジネス」で発表)を含む。 'I Love You Debby' が巻頭の短篇で、'REASON TO BELIEVE' が巻末の短篇である。 この構成をみる

[書評] The Lost Gospel

Simcha Jacobovici and Barrie Wilson, 𝑻𝒉𝒆 𝑳𝒐𝒔𝒕 𝑮𝒐𝒔𝒑𝒆𝒍 (Pegasus Books, 2014) 波乱含みのスリリングな解読を楽しむ 次の3つの媒体で読んだ。 ①ハードカバー本 ②電子書籍 ③Audible 今回は、主として①について論ずるが、他の媒体についても簡単にふれる。③はすばらしい朗読(Bob Souer)だが、肝腎の対象写本部分の朗読がないのが惜しい。しかし、著者らの論説だけでも約13時間(標準速度)あり、

[書評] 茶の本 武士道 代表的日本人

関岡孝平氏が訳した『武士道 ~日本のこころ~』を読み/聴き、それについて書こうと思ったが、この本が単独では出版されていないので、各論としての『武士道』のことは他日にゆずり、今は同氏訳が収められた『現代語新訳 世界に誇る「日本のこころ」3大名著 ──茶の本 武士道 代表的日本人』について述べたい。 この書には次の三つの書が、いづれも関岡孝平氏訳で収められている。書名のあとにAudible版の朗読者名を記す。 ①岡倉天心『茶の本』(大橋俊夫) ②新渡戸 稲造『武士道』(林 和

[書評] 読書脳

樺沢紫苑『読書脳』 〈読書は学びの入り口〉 との観点から、読書をあらゆる側面から捉える読書指南の書。 ゆえに、読むだけでなく、例えば、著者に会いに行くなども、著者にとっては読書術のひとつである。 読書は〈インプット〉の入り口だから、著者に会って非言語的な何かを吸収する。それだって読書をきっかけにした連続した学びのひとつと、著者は捉えるのだ. 〈(あなたのメンターに会うのは)一生に一度のチャンス〉ということもあると、著者は栗本薫が生前最後に公の場に出たトークセッションの