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脳波の話

脳波は考えていることが分かる?

私はかつて現役で病院勤めをしていた頃、脳波の検査を数多く行なった時期がありました。その時によく訊かれた事の一つが、「脳波って、私が考えていることが分かるんですか」と言うものだったのですが、皆さんこれが気になるんでしょうか。

結論から言えば、「その人が今何を考えているかなんて、まったく分かりません」。そりゃそうでしょう。脳波検査は脳の活動電位を波形として記録して解析するものですが、「〇〇を考えている時はこのような波形になる」とか、「こんな波形の時はこのような気持ちになっている」とか、そんな特徴的な波形などはありませんから。

いくら体と心は密接に関係しているといっても、だからといって波形だけで心が分かるわけではありませんよね。

脳の活動電位というのは、脳細胞が興奮した時に発生する電位のことです。これでは分かりにくいのですが、ざっくり言うと「細胞が生きていれば生命活動などを行なう、そして刺激があれば反応する、その様子を電気的に調べたもの」、そんな感じです。

脳波検査は頭の上にたくさんの「電極」と呼ばれる小さくて丸い、コードが付いたものをつけます。電極なんていう名前が付いているので最初は「ビリビリするんじゃないか」と心配される人もいますが、入力側、ラジオやテレビでいうアンテナにあたるものですから、触っても検査中でもビリビリすることはありません。

そして、コードが付いた丸い皿のような電極なので、皿電極と呼びます。針はついていないので、痛みを伴うこともありません。一般にはペーストと呼ぶバターに似た感じの物を皮膚と皿電極の間に挟むので、ちょっと気持ち悪く感じるかもしれません。ペーストというのは「練った物」という意味で、食物の話題でよく出て来ますが、もちろん脳波検査で使うペーストを食べることはできません。これは伝導性を持っていて、皮膚表面からの脳波信号をキャッチするために使います。

この信号、キャッチしやすくするためには頭皮の汚れや皮脂などを取り除かないといけません。そのためにはアルコール綿などを使って、頭皮の汚れ取りを先に行ないます。稀に「私の皮膚はアルコールがダメ」という人がいます。その場合はアルコール綿は使わず、別の洗浄剤を含ませた脱脂綿を使います。採血や注射の場合も含めて、皮膚にアルコールを接触させることがダメな人は、必ず申し出てください。

どんな波形が出てくるか

大きな紙の上にたくさんの波形が一斉に書かれていく様子、見たことがある人も多いでしょう。その紙も非常に長くて、だいたい300メートルとか、1000メートルとか、そんな長さのものが30センチごとに折りたたまれた状態で箱に入っているものを使います。1ページが30センチというのは既定の長さなので、これが替わることはありません。この紙(記録紙)が一定のスピードで流れて動き、その上を多数のペンがそれぞれ上下に動いて波形を描くのが脳波検査の記録です。この30センチの長さは時間にすると10秒になります。脳波の記録は、1秒間に3センチのスピードで行ないます。

そこに描き出される波形をみて判断するのが脳波の検査です。教科書的なキレイな波形はまず望めませんが、丁寧に頭皮の処理をして皮脂を取り除く努力をして、同時に被検者である患者さんも安静状態を保ってくれたとき、検査を行う環境も非常に良かった、そんな条件が上手く噛み合った時には、ある程度の整った波形で記録することが出来ます。

その波形ですが、一番有名な波形はα波でしょう。
α波はこの後に書くβ波とともに、脳波としてはよく見られる一般的な、標準的な波形です。α波は目を閉じた時に何も考えずにボンヤリとしている時によく見られる波形で、リラックスした状態で出るモノです。後頭部優位と言われていますが、ここには視覚野がありますので、目を閉じていると視覚情報が入ってきません。そのため、目を閉じた状態でα波が出てくるのですが、反対に目を開けるとα波が消えてβ波になります。これは目を開けることで視覚情報が入ってくるために、それを処理するために後頭部の視覚野が働きだすためです。

α波を基準に、それより早い(周波数の数値が大きい)波形を総称して「速波」と呼び、β波γ波の名前が付いています。γ波は通常の脳波判読の対象にはなっていません。β波はリラックスしている状態ではない、すなわち緊張状態であると考えます。物事を考えている時や計算をしている時などに見られます。

α波より周波数が少ない波形は「徐派」と呼ばれ、θ波δ波があります。ウトウトしている時や眠っている時など、リラックスを通り越した状態で見られます。脳の働きがそれだけ緩慢であることから、病的な状態(とくに意識障害など)に出たりする傾向があります。

最近の話題では、θ波はフロー状態になっている時にも見られるとされているという話があります。これは、体はリラックスしているけれども、頭はフル回転しているような状態、つまり何かに没頭しているような時という話です。どのようにして測定するのかは分かりませんが、フロー状態にすぐに入る事が出来る人は集中力も発揮できるでしょうし、記憶力もよいのではないかと考えます。



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