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好気性と嫌気性の話

好気性や嫌気性って、空気の事ですか?

その通り、空気のことです。厳密にいえば空気の中に含まれる酸素のことなのですが、一般には空気という認識で構わないと思います。細菌の話をしていますので、実際には「好気性菌、嫌気性菌」といった表現になりますが、つまるところ酸素が存在する環境で生育や増殖が出来るかどうかといった意味で使う言葉です。

好気性菌という場合は、呼吸によって酸素を身体の中に取り込んで利用する代謝の機能を持つ菌のことで、その代謝によってエネルギーを得ています。呼吸によって取り込まれた酸素は、糖や脂質を分解してエネルギーを取り出すことに利用されるのですが、酸素はその際に酸化と呼ばれる方法を用います。

私には意外なことでしたが、化学物質としての酸素(この場合は空気中の酸素なので、遊離酸素と呼ばれたりします)はあまり安定した物質ではありません。そのため、安定化するために様々な物質を酸化する性質があります。身の回りでも鉄や銅を放置しておくと錆びたり緑青が出来たりしますよね。これはいずれも酸化されて起きた化学反応によるものです。

生きていくうえで、酸素はそれほどに大切なものなんです。好気性菌に限らず、人間も含めて地球上のありとあらゆる生物は、そのほとんどが好気性ですね。そして活発に活動しています。更に、人間もそうですが、酸素の供給が止まってしまうと酸欠といった状態になって、条件が悪ければ短時間で死んでしまいます。締め切った部屋で暖をとる時に換気の注意が必要とされるのも、この酸欠のリスクがあるからですね。

反対に、嫌気性菌の場合は増殖に酸素を必要としない代謝の方法で増殖することができる菌を指します。そして、じつは嫌気性生物のほとんどが細菌であるとされているんです。

嫌気性菌はその名の通り、酸素がない場所で生きています。地中であったり海中であったり、人間の腸の中も酸素がない環境なので嫌気性菌が多数存在しています。

好気性や嫌気性の前に付く言葉は性格を表す

通常は好気性または嫌気性と表現すれば、それだけで意味が通じます。ただ、実際にはそんな簡単に事が運ぶわけではありません。酸素が在っても無くても生きることができる、そんな生物だっているんです。そのため、その辺りの事情を区別して表現するために、好気性や嫌気性の前に付ける言葉が必要になります。こんな言葉が付きます、「偏性」と「通性」。


偏性とは「厳密に」といった意味合いでしょうか。漢字を見た通り、偏っている状態が良いという事ですね。偏性好気性と言うと「酸素が無ければ生育も増殖も出来ない」という意味になりますし、偏性嫌気性であれば「酸素が在ったら生育も増殖も出来ない」という意味になります。

これに対して通性という言葉を使うとどういう意味になるかというと、どっちでもいいよといったところでしょうか、「酸素が在っても無くても、生育できるし増殖も出来る」、そんな意味を表します。したがって、通性好気性という言葉と通性嫌気性という言葉は、同じ意味になるんです。しかし、先に書いた通り地球上のほとんどの生物が酸素が在る環境で生きていますので、嫌気的な環境の方が発育環境としては考えにくいという事になりますね。そのため、通性好気性とは言わず、通性嫌気性の言葉の方を用います。

まとめると、偏性好気性、偏性嫌気性、そして通性嫌気性、この3つの言葉が存在しているということです。じつはこれ以外に、微好気性という言葉を使うことがあるようですが、主に食品に関する分野のようでした。あまり使うことが無いようなので、今回は省略します。

人間の腸の中に存在する菌(腸内細菌のことですが)、腸内細菌叢を作っている常在菌は偏性嫌気性の菌と一緒に通性嫌気性の菌も存在しています。繰り返しますが腸の中は酸素がない環境なので、偏性好気性の菌が増殖することはできません。

嫌気性菌ってどんなもの?

善玉菌として有名なビフィズス菌は、嫌気性菌の一種です。危険な毒素を出す破傷風菌やボツリヌス菌も、嫌気性菌です。ビフィズス菌以外にもバクテロイデスやクロストリジウムといった菌は腸内細菌叢を構成している菌の一種ですが、これらは先の表現を用いると偏性嫌気性菌のグループに入ります。その一方で大腸菌や腸球菌、乳酸桿菌といった菌は通性嫌気性菌のグループです。

好気性菌は糖や脂質を使って酸素の存在下で代謝を行なうので、多量のエネルギーを得ることが出来ます。そのため、活発に動くことが出来るものが多いのですが、嫌気性菌の場合はそうはいきません。発酵や嫌気的代謝を行なってエネルギーを得る方法を獲得しているのですが、これはあまり多量のエネルギーを得ることが出来ません。そのため、動きが緩慢であることと同時に、エネルギーが少ないために多細胞生物が活動するには不向きとされています。

因みに通性嫌気性菌はというと、酸素が存在している場所では好気的な代謝を行ない、酸素が存在していないところでは発酵や嫌気的代謝を行なう事が出来るという、いわば二刀流といったところでしょうか。

さて、嫌気性菌には特殊な機能を持つ菌がいるようです。有機物等を分解してしまう力があるというもので、汚水や排水の処理場で実際に用いられています。人体に関わる腸内細菌の話題からは外れますが、嫌気的な処理をすることで、酸素を必要としないので省エネにつながるとか、メタンガスが出るらしいのでこれを回収することでエネルギーを生み出すことができるとか、排水に含まれていた有機物などを分解することで廃棄物の量が減るとか、いろいろとメリットがあるようです。ちょっと意外でした。

まだまだ知らないことが多いようですね。


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