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大腸菌の話

大腸菌は誤解されている?

一般に「大腸菌 = 不潔」、そんな捉え方をされていますが、じつはほとんどの場合、無害なんです。実際のところ、私たちは大腸菌の事をどれくらい知っているでしょうか。ということで、特徴や性質など、ちょっとまとめてみたいと思います。

先ず性質ですが、大腸菌は通性嫌気性グラム陰性桿菌です。こう書いてしまうと分かりにくいかもしれませんが、酸素が在っても無くても生きていけるタイプの菌で、グラム染色という染色を行なった時の判定が陰性、つまり菌体を作っている細胞壁が薄くて外膜を持つという構造をしている、細長い形の菌であるという意味です(言葉がちょっと長い)。

また、温度や湿度、必要な栄養分が培地に揃っているような理想的な条件の場合、理屈の上では10分から20分もあれば細胞分裂をして2倍に増殖します。実際に人間が生活するような環境下でそんな速度で増殖することはありませんが、それでもかなり速いことは間違いありません。

大腸菌は細菌学の分類上、腸内細菌科に属する代表的な菌です。したがって、人間の場合は腸の中に生息しています。外部環境ではさほど存在していないのか、普段はあまり意識されることはありません。

大腸菌が意識されるのは、環境の汚染度を調べた時でしょう。環境の拭き取り検査などを行なうことがありますが、清潔の度合いを調べたりする場合は黄色ブドウ球菌などが目安とされ、汚染の度合いを調べる時には大腸菌を目安にしたりします。

次は病原性です。大腸菌はその名の通り人間では体の中、すなわちお腹の中に存在していますが、だからといってそのまま病原性があるという訳ではありません。ほとんどの大腸菌は無害です。まず、この点を理解してください。

病原性について

かつては食中毒の話題が多かったと記憶していますが、病原性大腸菌という言葉が出て来てから、大腸菌に関連した病原性や直中毒は全てこの中に集約されるようになった感があります。現在は5種類に分けられているので、紹介します。(順不同)

①腸管病原性大腸菌(EPEC)
人間の小腸でしっかりと粘膜の細胞にくっついて、表面の絨毛(じゅう毛)を壊してしまうことで、下痢を起こすということが分かってきました。

乳幼児(特に2歳以下)に感染することが多く、日本では乳幼児の下痢症から時折り見られるだけでなく、集団で食中毒が起きることもあります。

下痢が起きた場合、大人であれば単なる脱水で済むことも多いのですが、乳幼児にとっては重篤な場合も少なくありません。症状はいわゆる腹部症状で、腹痛やおう吐、発熱などを起こしたりします。潜伏期間はたいてい1~2日程度とされ、大人であれば数日、乳幼児では1週間ほどで回復するようです。

②腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)
赤痢菌によく似た性質をもっており、重症な大腸炎を起こすことで知られています。大腸の上皮細胞に侵入して大腸や直腸に潰瘍性の炎症を起こします。

EIECは先のEPECと異なり、乳幼児に感染することはまれで、発生自体も散発的なことがほとんどですが、集団発生をすることが無いわけではありません。

潜伏期間の多くは3日以内とされ、患者さんは血液や粘液、あるいは膿が混じった下痢を起こします。その他にも、発熱を含む腹部症状などが表れます。症状が長引く症例もありますが、たいていは数日で治まるとのことです。

③腸管毒素原性大腸菌(ETEC)
このタイプは、腸管内で下痢の原因となる毒素を産生するタイプです。集団での食中毒や海外旅行者が下痢症を起こす原因になることが多いという特徴があって、特に、水道の整備が十分でない地域(東南アジアやアフリカなど)へ旅行に出かける場合は注意が必要です。その中でも、特に飲食には注意が必要です。

症状としては水様性の下痢が多く、時に便がコレラ患者のような状態になって、脱水症状をも引き起こします。腹痛、おう吐が多く見られますが、発熱はあまり起こりません。潜伏期間は、多くは3日ほどです。早ければ数日で回復しますが、長引く時は10日以上の場合もあります

④腸管出血性大腸菌(EHEC)
ベロ毒素と呼ばれる強い毒素を出して腸から水分を吸収できなくしたり、血管を破壊したりします。真っ赤な下痢便からO157が検出されたことがきっかけで発見されました。日本でも一時は大騒ぎになったのは記憶に新しいところです。

O血清型ではO157が最も多く、次いでO26、O111とO121が続きます。

症状としては、腹痛と水様性の下痢で発症し、翌日に血便を呈することが多いようです。おう吐は少なく、発熱は37℃前後で軽度です。潜伏期間は、一般的には3〜5日が多いようですが、感染後10日以上経過してから発症した症例もあります。平均8日ほどで回復するとされていますが、患者によってはHUSと呼ばれる、腎臓などに障害を引き起こして、重症化したうえで死亡に至る例もあります。特に小児や高齢者はHUSを発症する割合が比較的高く、重症化しやすいようです。

予防策としては、どの血清型も熱に弱いという特徴があって、75℃で1分以上加熱することで死滅させる事が出来ます。なので、食肉の十分な加熱(特に小児、高齢者、抵抗力の弱い人に対して)、それと手洗いが有効です。

⑤腸管凝集接着性大腸菌(EAggEC)

発展途上国(南米、アフリカなど)の乳幼児下痢症から多く見つかっているという、比較的新しい感染症です。とはいっても、先進国でも発生しており、日本国内では東南アジアから帰国した下痢患者からだけでなく、乳幼児の下痢症や食中毒などの集団事例からも見つかっています。

症状は、粘液を含む水様性の下痢便、これに血液が混ったり緑色になったりすることがあります。腹痛は多くの症例でみられ、おう吐したり、38℃前後まで発熱したりすることもあります。

潜伏期間は、一般的に半日〜2日程度です。3〜7日程度で回復しますが、乳幼児や免疫力が低下している場合はこれが長くなる傾向があります。症例によっては2週間以上の持続性下痢を起こす場合もあります。

これだけいろいろと種類があると、大腸菌と一括りにして考えるのは難しそうですね。


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