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SMBGとPOCT

今回はいきなり難しい略語が出てきました。ですがこの二つの略語、糖尿病の話題では必ずと言って良いほど出てくるものです。今回はこの話題を取り上げます。

実はこの二つ、どちらも臨床検査項目に深い関係があるのですが、使う場面は全く異なります。

SMBG

 S:Self (自分で)
 M:Monitoring または Measurement of (測定する)
 B:Blood (血液の)
 G:Glucose (ブドウ糖)

SMBGとは上記のような言葉の略で、通常は手のひらサイズほどの小さな測定器を指します。そしてその機械を使って、測定したいタイミングで自分の血糖値を測るので、一般に「自己血糖測定器」と訳されています。

どんなタイミングで自分の血糖値を測定するかというと、それはかかりつけの医療機関を受診した時に主治医と話し合って決めます。ですから、患者さん一人一人によって測定するタイミングは違ってくるでしょうし、それに応じて毎日の測定回数も変わってきます。受診をする時には、この機械を持参していただくと、多くの場合、医療機関側のスタッフが内蔵されたメモリーに記録されているデータを抜いてグラフにしたり一覧表にしたりして、主治医の診察に役立ててくれます。

もちろん、患者さんの側も測定した血糖値を専用のノートなどに記録しておくのですが、時におかしなことが起きます。例えば、患者さんのノートに記載されたある日のあるタイミングの血糖値と、機械から抜いたその時の測定値が一致しない・・・。
「このノートの数字、まちがっているよ」と主治医に指摘されて、「えっ、バレた? なぜ分かったの?」。この患者さんはそのあと、主治医からこんこんと説教をされたとか。
これは特別な例でしょうけれども、内蔵のメモリーに測定値が残っていれば、単なる書き間違いでも修正ができるので便利です。

この機械、昔はいろいろとメンテナンスに手間がかかることも多かったのですが、現在の機械はとても便利に出来ています。
例えば、血液が機械と接触しない。これによって機械が汚れたり、乾いた血液がどこかに引っかかったりして、誤動作を起こしたりすることがなくなりました。また、昔は乾電池を数本入れて電源にしていましたが、現在はボタン電池を使うとか、充電して使えるなど、電源の方も扱いがずいぶん便利になっています。測定値を表示する液晶画面も大きくなっており、カラーで表示してくれるものも増えて、とても見やすくなりました。

最近の機種では、自宅で測定した血糖値のデータを、数キロ程度の距離であれば医療機関に送ってしまう機能が付いたものがあるとか。いろいろな場面での使用が考えられるため、SMBGはキチンとした基準に基づいて、精度の高い機械として認められています。

SMBGは患者さんが日常生活の中で、ご自分の血糖値を測定しながら体の状態を知っていただき、糖尿病が悪化しないように役立てていただくものです。保険請求上の明細に糖尿病に関する管理料の記載がある場合、その項目によってはその管理料にSMBGの費用が含まれていることもありますので、詳しくは医療機関に尋ねてみてください。

POCT

 P:Point (その時点で)
 O:Of
 C:Care (ケアの)
 T:Testing (検査)

POCTは上記の言葉の略になります。意味は「ケアの場面で行なう検査」ということで、こちらはSMBGと違って医療スタッフが使用する検査用機器全般を指します。医療機関の中であれば相応の検査設備を持っているでしょうから、患者さんから採取した検体をそこに運んで検査をすればよいのですが、時にそれがそぐわない事も出てきます。

POCTの定義は「POCTとは、被検者の傍らで医療従事者が行う検査であり、検査時間の短縮および被検者が検査を身近に感ずるという利点を活かし、迅速かつ適切な診療・看護・疾患の予防、健康増進等に寄与し、ひいては医療の質を、被験者のQOL(Quality of life)に資する検査である。」(POCTガイドライン(日本臨床検査自動化学会)より)というものです。ですから、血糖値に限りません。血液ガス分析であったり、心電図であったりと、様々な検査項目が対象になります。そして、POCTの機器を手順通りに扱えばキチンとした結果が得られるように作られています。
医療機関の中でも診察室内で、病棟の病室で、手術室内で、あるいは医師の往診や訪問看護といった場面でも使用されます。

現在、POCTには厳しい基準が設けられており、ISOに医療機器に関する規定が存在しています。そしてこのISOの基準をクリアした機器しか認可されていませんので、医療スタッフの方も、被検者である患者さんも、安心して検査結果を利用していただいています。そしてその結果を使ってその後の診療に役立てていくことから、POCTで得た検査結果はその患者さんの公式なものとして記録に残していきます。また、保険請求上は通常の臨床検査と同じ扱いをされ、保険点数が算定されます。

両者の共通点と相違点

共通点は
 ・共に臨床検査項目である
 ・その検査結果を用いて次の医療に役立てている
 ・ともにキチンとした高い基準をクリアしたものが流通している
相違点は
 ・SMBGは患者さん本人が使用する、POCTは医療スタッフが使用する
 ・SMBGは主治医が診療の参考にする、POCTはそのまま診療に使う
 ・SMBGは血糖測定のみが対象の機器、POCTはベッドサイドでの検査全般

共通点や相違点を理解したうえで、医療機関ではこの両者を活用しています。

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