シュイシュイ

腰の痛みを訴えていた友人が癌で死んだ日も、5日前に会ったばかりの祖父が死んだ日も、全部楽しかった日から連続してるんだって。嘘みたい。あの日も、今日も、信号は決められた秒数で色を変える。

蝉が鳴いていた。ミンミンじゃなくて、シュイシュイだよね、と言ったら首を傾げられた。蝉が鳴いている。ほら聞いてみろ、シュイシュイと鳴いているじゃないか。同じ蝉じゃないのに、毎年同じように聞こえる。

祖父が死んだ翌日の17時から21時、本屋には別のアルバイトが立っていた。どの客も異常には気が付かなかっただろう。信号はいつだって社会を青く灯しつづける。友人とは最後にスターバックスで桜味の是非について語り合った。祖父には病室に持っていった栄養ドリンクを拒否された。私はもう何も思わずにそれらを見ることができないのに、桜味のフラペチーノは毎年行列を生むし、変な色の飲料はKIRINの自販機で24時間冷えている。

この文章を読んだ者は、私の死後、もうミンミンと鳴く蝉に出会えない。毎年シュイシュイと鳴くことだろう。シュイシュイと聞こえてくれ、せめてその年だけは。

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