家族との絆

私は2年前に25年以上連れそった妻と離婚した。娘2人は妻について行った。1人郊外の一戸建てに住んでいた。都内に住む父の容態が今年の2月から悪くなり、母も本人は自覚がないが、認知症でお医者さんとの話がわからない。仕事を休んで、病院の予約に数回ついて行った。頼んでくる時には、しおらしく、頭を下げてくるのだが、お医者さんから言われた生活改善のこと、妹から言われた、両親と同居の件など、話をすると、「お前は関係ない。」と怒鳴りつけてくる。そしてまた病院の予約が近づくと、手のひら返して頼んでくる。そんなことが3ヵ月続いた5月のある朝、母から、電話で、「お父さんが起きない。来てくれる?」(とうとう来たか。)覚悟して行くと、父はベッドから起きられず、意識が朦朧としていた。パニックの母をなだめながら、救急車を呼んだ。救急隊員は最初のうちは大したことないと思ったようだが、返事が出来ないとわかると、急にせわしく、救急病院に電話をかけ始めた。救急車に乗ってからも、しばらく病院が決まらず、10分後にやっとサイレン鳴らして動き出した。実家からは、地下鉄かバスで20分ぐらいの病院に向かい、その日のうちに入院が決まった。コロナの関係で見舞いは出来ない。自分が母の介護のために実家に同居することになり、約1ヵ月後に妹が来てくれて、リハビリ病院に転院した。同じく見舞いは出来ない。それから半月後に父が危篤と病院から言われ、職場に忌引きになるかもしれないことを説明して、早退した。病院から自宅待機するように言われた。夜中に病院から電話で、父が亡くなったと連絡があった。そこから怒涛のように流されてお葬式。コロナなので、人は呼ばず、家族だけにした。それでも、後でお香典をいただいたので、お返しは用意したが。母と妹は式の間ずっと泣いていた。何故か自分は涙が出なかった。父はおよそ花の似合わない人だったが、棺は花で埋めつくされた。火葬場に行き、お骨になって帰ってきても、遺影を見ても実感が湧かなかった。父とはよく喧嘩したからだろうか。寡黙な父に文句を言うのは自分だった。家にいても、自分からはほとんど話さない人だったのに居なくなると静かだ。1週間経ったころ、妹と50日祭やら、納骨などを決めているころ、自分の携帯に見知らぬ番号から電話があった。取ると、父の声だった。「ありがとう。いいお葬式だった。」思わず涙が溢れ出てきた。葬式で涙が出なかったのに。気がつくと実家の寝床だった。目の周りには目やにがついていた。(夢か。)笑われるかと思ったが、母と妹に話したら、やはり夢に父が出てきたという。霊魂など絶対に信じない父だったが、家族に挨拶に来たのだろう。

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