喪失感から再出発へ
この数年間で、両親との死別を立て続けに経験した。
父との別れの後も、母とのときも、
私はふたりの遺品をずいぶんと大胆に処分してしまった。
同居していたこともあって何処を見ても思い出の品々があって、やるせない思いに耐えきれなかったから。
そう言い訳させていほしい。
悲しい思いをムシするかのように、
まるでひとつの作業のように進めていくうちに
父の几帳面さと家族に対する責任感が、
手に取る一つひとつの品々を通して私の胸に迫ってきた。
私はそうした父の思いにどれだけ応えることが出来ていたのだろうかー。
一つひとつ手に取るうちに父への感謝の思いと
自責の念が積み重なっていった。
数年後-。
母の死はあまりに唐突だった。
父の時もそうだったけれど、入院して治療が終わったら
元気になって帰ってくると信じて疑わなかったから。
私は自分の感情をどうとらえていいのか途方に暮れた。
すべてから目を逸らしたかった。
そして私は母の遺した品々を目の前から消し去ろうとしたのだった。
あれこれ手に取っているうちに
「母の持ち物は、これだけ? 他になかったっけ?」
見落としはないかと、部屋を見渡したほどだった。
そう、これが母なのだ。
贅沢とは無縁のひとだった。
ほんとうに身体ひとつでこの世に生まれてきて
身体ひとつであの世へ帰っていった。
「お母さんのことはいいから、あなたが必要なものを揃えなさい」
そう言って自分のことよりも常に家族のことを最優先にしていた。
私はその思いをあまりにも当然のように受け取ってはいなかっただろうか。私の心の中は、母から与えられてきたたくさんの愛の思いで満たされていった。私はこんなにも愛されて今日まで生かされてきたのだった。
後悔の念に押しつぶされて
私がうずくまって涙している姿を
多分ふたりは心配しているに違いない。
この世ではもう会えないけれど
今は面と向かって感謝を伝えられないけれど
今まで愛し育んでくれた日々は永遠に消えないから。
私がこの人生でやるべきことをやろう。
精一杯やって最後の瞬間まで生ききろう。
涙を拭いて前を向いて生きていこう。
ここまで頑張って来たよと
笑顔で報告できるように。
お父さん、お母さん
そちらで元気でいてください
また会う日まで。
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