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『メディア・バイアス』ノート

松永和紀著
光文社新書
 
 副題は、「あやしい健康情報とニセ科学」である。
 テレビ番組で、「〇〇はダイエットに効果がある」とか「□□は健康に良い」と流れると、即日コンビニやスーパーの棚からその商品が無くなるということがかつてあったし、今でもあるようだ。発信者が有名な人ほど、また医学博士など肩書の人が発言するとその現象は顕著だ。
 逆に「△△は危ない」とか「××は環境によくない」などという情報も流れ、それがテレビや全国紙でも取り上げられるが、いつしか報道もされなくなる。一旦流した情報がその後、誤っていたと否定されてもそれを改めて報道することはほとんどない。
 
 それらの報道の共通する傾向は、単純でわかりやすい内容で、良いか悪いかの二者択一、白か黒かの二分法だ。それに、健康に関することであれば、白衣を着た医学博士や医師が必ず出てくる。そのほかの分野の情報でも、専門家や科学者然とした人が出てきて、数字や図式を使ってもっともらしい解説をするのだ。
 
 しかし、著者は、「科学はそれほど単純ではない。さまざまな条件や量の大小によって良くも悪くもなる。白か黒かではなく、グレーゾーンが大部分である」と書く。
 メディアはその性質上、このグレーゾーンをうまく伝えることができず、多種多様な情報の中からセンセーショナルで、視聴率がとれそうな内容、売上げ部数が伸びそうな、白か黒か簡単に決めつけられるようなものだけを選び出し報道する。それが社会的に反響を呼ぶほど視聴率が上がり、部数が伸びる。このメディアによる情報の取捨選択の歪みを〝メディア・バイアス〟という。
 
 社会心理学の用語で「確証バイアス」と呼ばれるものがある。これは自分が信じている情報などについて、その情報と似たような情報、肯定する情報ばかりを信じてしまうのだ。この心理は大なり小なり誰にでもあるものだと思う。
 ネット検索が当たり前の時代になり、その検索履歴がプラットホームによって集められ、その人の興味を集積・分析して同様の傾向や分野のニュースが流れてくる。それによってますますバイアスがかかってくる。
 最近は、SNSの発達によって、これが真実だと自分が思い込んだ情報ばかりを集め、チェックをすることもなしに拡散してしまう。そしてアクセス数などを自慢する。これはある種の承認欲求かも知れない。いわゆるフェイクニュースを流すことなども「確証バイアス」の派生形であろう。
 
 この本では、メディア・バイアスの例としてテレビの健康情報番組、残留農薬、環境ホルモン、食品添加物、マイナスイオンブーム、遺伝子組換え食品の問題等が取り上げられている。
 後半では、『結晶物語 水が教えてくれたこと』(江本勝著 サンマーク出版)に書かれている「水からの伝言」という荒唐無稽な主張が国会質問や地方自治体の広報紙、はては小学校の道徳の授業にまで取り上げられたことがあると書かれており、驚きを通り越して、呆れた次第である。
 ご興味ある方は、下記をクリックしてください。
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/fs/
 
 最後の章の「科学報道を見破る十カ条」にはこうある。
 
1.懐疑主義を貫き、多様な情報を収集して自分自身で判断する。
2.「〇〇を食べれば……」というような単純な情報は排除する。
3.「危険」「効く」など極端な情報は、まず警戒する。
4.その情報が誰を利するか、考える。
5.体験談、感情的な訴えには冷静に対処する。
6.発表された「場」に注目する。学術論文ならば、信頼性は比較的高い。
7.問題にされている「量」に注目する。
8.問題にされている事象が発生する条件、とくに人に当てはまるのかを考える。
9.他のものと比較する目を持つ。
10.  新しい情報に応じて柔軟に考えを変えてゆく。
 
 もっともなことばかりだが、「自分自身で判断する」ことが実は一番難しいのではないか。

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