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自治体業務で「請け負け」しないための4つのヒント

建設業界では、「請け負け」という言葉があります。

発注者側の立場が強い場合は、請け負ったが最後、発注者の無理難題にすべて答えなければ業務が完了せず、完了しなければ支払いが行われない。だから、赤字になろうとも発注者の要望に応えてしまう。それが発注者・受注者とも当たり前になってしまい、そもそも「請け負った段階で負け(=赤字)」という構造を言います。建設業界のあるあるですよね。

さて、この言葉、建設業界だけでなく、自治体向けの委託業務全般でも耳にすることがあります。例えば、

<ケース1:施設運営の場合>
施設運営を年間5000万円で新規受託したけど、仕様書にない要求が次々に出てきて対応を迫られた。仕様書にないから、と断ると「前年度の業者はやってくれていた。市民サービスが低下するのでやってもらわないと困る」の一点張り。増額変更してくれと頼むと「今年は予算がなくて・・」と繰り返すだけ。かといって、こちらから契約解除を申し入れるほどの金額ではないし、今後の発注者との関係も悪化するからできれば避けたい。赤字覚悟でやりきるしかないか。

<ケース2:調査業務の場合>
報告書のドラフトを市長に見せるので、説明資料を作ってほしいと言われた。報告書の抜粋でいいからと言われて作り始めたけど、細かなところで修正が入り、何回も手戻りが発生。ページ数も30ページを超える大作となり、この作業のために他の案件をストップしてしまい、別の発注者からのクレームに発展。急遽、残業対応でマンパワーを確保して乗り切るも、その分の費用は請求できない。

こんな話は日常茶飯事。あるある!という声が、ここかしこから聞こえてきそうです。そんなときの対処法について、簡単にご紹介したいと思います。

1.見積りの精度を上げる

自治体の案件では、業務を受託する前に必ず入札やプロポーザルなどの手続きを踏む必要があります。その際に、いくらでこの業務を請け負うのか見積もりを作成すると思います。この見積もりを、できるだけ「シビア」に作成するのがポイントです。

一度請けてしまえばどんなに業務量が増えても増額変更はかなり厳しい、ということを念頭に、以下の検討を行うと良いです。

①業務内容に不明点があれば、発注者に書面やメールで質問し、不明点を解消する。電話だと「言った・言わない」になるので、必ず文章で残す。

②業務に含まれるリスク(工数増加の要因)を洗い出し、そのリスクをいかに最小化できるのかを考える。例えば施設運営の場合、予想以上に利用者が増えたらコストも増える。どの程度の費用・収入の振れ幅があるのかを考え、バッドシナリオで見積もりを作成する。

③業務受託者の選定が価格競争の場合は、受託するために踏み込んだ値引きが必要な場合もある。その際、②のリスクをどこまで自社で呑み込めるか、第三者に転嫁できるか、という観点で、値引き額を設定する。※値引き幅については、公募の評価点との見合いで決めることが多い。値引きしても評価がほとんど変わらなければ、あえて高い価格で提出することも。

2.変更契約は当然の義務。臆せず交渉

無事契約に至り、業務を進めていく中で、当初予想していなかった工数の増加が発生することがあります。その変更は大小さまざまで、どのタイミングで変更契約すればいいのか悩ましいことも多いですが、「さすがにこの内容はコストがかかりすぎている」と感じるなら、その内容について変更契約を申し入れましょう。

自治体担当者は、「追加作業の依頼には当然、増額変更が伴う」ということを認識していますが、どの依頼が仕様書に含まれ、どこまで行ったら追加作業になるのか、あまり理解されていないことが多いです。このため、契約変更が必要だなと感じたら、臆せず受注者から申し入れてください。

申し入れのタイミングは、あまり工期ギリギリにならないようにするのが肝です。残りの期間が十分にあれば、追加作業と未着手の作業を相殺して金額変動をしない、という対応が取れます。もし、相殺する対象業務がほとんどなくなってしまった業務終盤のタイミングで、過去にさかのぼって契約変更を申し入れた場合は、追加予算も確保できず仕様書も変更できず、担当者も打ち手がなく八方ふさがりになってしまいます。結果、契約変更の確約もないまま発注者の言いなりで作業してしまった受注者が「請け負け」の状態になってしまうのです。

行政委託の「請け負け」は、このタイプが多い気がします。こうならないためにも、常に業務の進捗や収益性を管理し、必要なタイミングでタイムリーに契約変更を申し入れてください。

「契約変更なんて申し入れたら、気を悪くされるかな?」なんて杞憂です。発注者と受注者は対等な立場であり、サービスとお金は等価です。発注者から追加のサービスを求められたら、受注者には対価を求める権利があるのです。

3.勉強と割り切り、来年度以降で回収

自治体の年間予算は前年度末の議会で決まるため、期の途中で増額することは難しいのですが、業務期間中に来年度の予算要求が始まる場合は、来年度の予算額をしっかりと確保してもらうように交渉しましょう。

毎年7~9月頃に次の年の予算要求が始まりますので、担当者から言われなくてもこちらから、業務の提案をしていくことが必要です。

「そろそろ来年度の要求時期ですよね?来年度以降はこういう動きになるので、業務内容はこんな感じで考えています。費用はいくら位です。見積もり出しましょうか?」

と呼び水を向けると、下見積もりの依頼につながることがあります。ここで、赤字にならないような水準で見積もりを出しておくことで、長期的な黒字化を目指します。

この前提として、業務内容は誰でもできるものではなく、自社の強みやノウハウを活かせるものにしておくこと。これにより、予算が確保されて公募になったとしても、自社が有利に戦うことができます。

4.今後のお付き合いを断る

3.の内容は、はあくまでも今後お付き合いしたい自治体限定の対応です。時として、あまりにひどい担当者にぶち当たり、全く誠意のない態度をとられることもあります。そのような時は、「二度とこの自治体とは仕事しない」という選択肢もあります。

ちなみに私は以前、某県の出先事務所でまちづくりワークショップのお仕事をしたのですが、論外な担当者にお会いしたことがあります。

当初の想定にはない追加の作業が発生し、契約変更の協議を申し入れたところ、「県の予算1000万円(当初の受注額)は国の予算の1億円と同じくらいの重さ。御社は国との仕事もしているでしょう。だから県の仕事であっても、国の1億円くらいの作業は覚悟してもらいたい。なので、増額する必要はない」との回答が。

あれ、おたく国ではなく県ですよね?てか、国だと金額にかかわらず増額変更はしっかりと対応してくれますけど?

頭の中が???だらけでしたが、いくら交渉しても上司に挙げてくれるそぶりもなく。議論するだけ無駄と判断し、二度とその事務所の業務には参加しませんでした。

最後に

最近は、民間から自治体への転職者も増えており、以前ほど「お上」意識はなくなってきていると思います。それでも、多くのNPO経営者からは、自治体からの業務委託は理不尽な要求が多く、赤字覚悟なのでやりたくない、というお話を聞きます。

行政からの業務委託を本業としているシンクタンクやコンサル、設計会社、ゼネコンなどは、上記に挙げた1~4を当たり前のように実施していますが、行政からの委託に慣れていないとなかなかこれらのことに気づかないようです。

「行政からの業務委託にはうまみがない」「請け負けしているな」と考えているNPOや中小企業の方がいれば、ぜひ上記1~4を試してみてください。特に「1見積りの精度向上」、「2契約変更の申し入れ」は、行政の委託を継続する場合は必須項目です。最初からうまくいかないかもしれませんが、徐々にコツがつかめてくるはずです。

実際には細かなtipsもあるのですが、それはおいおいお伝えしていきますね。

ちなみに、請け負けについて面白い記事があったので、参考までに共有しておきます。


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