駅メモ ミナト誕
「ただいま」
いつも通りに仕事に行き、いつも通りに帰ってくるだけの生活にこの言葉が加わってから数ヶ月。とっくに言い慣れないものに変わっていた言葉に改めて慣れ始めていた。
「お帰りなさい、マスター!」
もう聞くこともないと思っていたこの言葉にも慣れ始めてきた。
「今日もいつもより遅かったんじゃない?ここ数日毎日。どこか散歩してるなら連れてってくれたら良いのに」
「ごめん、インターネットにはもう飽きちゃった?」
「とんでもない!いくら調べてもどんどん知りたいことが増えていくわ!いくら時間があっても足りないくらい!現代の資料は遠い未来のものに比べて整合性や根拠がしっかりと残されてたり研究されてる分情報量は多いけれどどれも読みごたえ抜群だし逆に遠い未来の資料と照らし合わせてその情報の変貌を辿ってみるのもとっても面白くて……」
「良いね。それじゃミナトの時代ではクリスマスツリーにお餅を吊るすようになった経緯が分かったら教えておくれ」
「もう!その話は止めて!恥ずかしいから~!」
去年ミナトと過ごした初めてのクリスマス(とツリー)を飾ったミナトの知識と勘違いの集大成の話。話題を反らしたい時に鉄板のトークで見事ミナトの頬を膨れさせる事が出来た。
「それに!話を反らさない!私はその……心配なのよ……」
ばれてた。
「心配?僕が仕事帰り出歩いてる事が?」
「そうじゃなくて!……いや、ある意味そうでもあるんだけど……その……」
宙に浮いたその小さな身体をそわそわさせながら何か言いたそうな、不安そうな表情をするミナト。……正直僕たちの最初の出会いを考えれば、僕が夜一人で出歩いてる事を心配されるのも無理はなかった。だけど、今回のこれは……
「分かったよ。大丈夫、明日の事なら忘れてないさ。キミへのプレゼントを決めるのに予想以上に手こずって毎日遅くなってただけなんだよ」
「プ、プレゼント!? え!? い、いや、別にそういうの期待してたとかそういうんじゃなくて……!?? え?」
図星だ
「安心した?」
「……うん」
「本当は秘密にしたままお祝いしたかったんだけどね。でも逆に心配さてしまってごめんよ」
「ううん。嬉しいわ。誕生日を覚えてくれていた事も、お祝いしてくれようとしれてた事も。すっごく!」
……やっぱりこういった事柄にはてんで疎いのが露見した結果になってしまったが、彼女の顔は不安そうな表情からいつものキラキラした顔に戻っていた。正直に話して良かったと思う。多分ミナトに会う前の僕ならなんとか隠し通そうとしてただろう。最も、ミナトに会う前の僕にはこんな出来事起こり得なかったんだが。そういう意味でも感謝とお祝いをしてあげたかった。
「本当は、現代に来て初めての誕生日だからずっと楽しみにしてたの!誰か特別な人と過ごせる誕生日も初めてだから」
「そっか、姉妹が居るとは聞いてたけど」
「そう。遠い未来でも、ミオ姉もナギサ姉もみんなバラバラだったから。現代に来てもまだ会えてないけど、でも今回は私のマスターと過ごせるんだもの!こんな特別な事ないわ!」
そう語ってくれるミナトはとてもキラキラと輝いていた。誰かと過ごせる幸せやワクワクが、身振りに、言葉に乗って伝わってくる。
「姉妹か……」
彼女はきっと、いや間違いなく自分の姉妹の事が大好きなんだろう。そんな彼女達と自分を並べて喜んでくれてる事はとても光栄な気持ちだ。嘘偽りなく。僕には勿体ない程に。
「ミナト、明日はお出かけしようか」
「お出かけ?もちろん!でもマスター仕事は?」
「当然、休みは取ってあるさ。」
「あら!マスターったらこんなにサプライズが上手だったのね!」
「……だけど実はミナトへのプレゼントも結局決まってなくてね。何か歴史書をとも思ったけどインターネットがあるから、何が最適か悩んじゃって。一緒に決めて欲しい。それに……」
「それに?」
「お出かけすれば、誰かでんことも会えるかもしれない。もしかしたら先にこっちに来てる姉妹達にも。お祝いはみんなで、でしょ?」
「マスター……!そうね、きっと楽しいわ!!」
誕生日を祝われるのも、祝わうのも、とっくに慣れないものに代わっていた。正直こそばゆくて、この感覚には暫く慣れられそうにはなかった。
「それで帰りにはケーキ買って、うちでパーティだ!」
「ケーキも!?それも楽しみだったの!現代じゃ誕生日には鬼が来るからケーキ投げて退治するんでしょ!それで年の数だけケーキを食べるって遠い未来の歴史書には書いてあったわ、もしみんなでやれたら絶対盛り上がるわ!」
「……プレゼントは行事資料にしようか。出来る限りの分厚いやつで」
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