駅メモSS 周辺近所膝栗毛

夕方、ドタバタと騒がしい物音で目が覚めてしまった。薄暗い寝床の外側で、焦りの声の主が気になり、マフラーを引きずりながら寝床を這い出してきた彼女が問いかけた。
「マスター、何騒いでるんですか?」
「あれ、たすく?もしかして起こしちゃった?ちょっとね~大事な支払いの事忘れてたの~!支払用紙どこやったかな~…?」
マスターと呼ばれた人物は、そう答えてながら部屋中を漁っている。
「支払い用紙なら、纏めて入れておける箱をこの前作って貰ってませんでした?」
たすくはひとつ欠伸をついてから、小物入れが置かれてたであろう玄関を指差す。マスターは元来のズボラな性格で、初めてマスターの元に来たでんこが言うには部屋も台所もお風呂場もそれは滅茶苦茶な事になっていたらしい。そのでんこが主導となり、幾らかの時間と集まった人員…もといでんこ員をかけ、最低限自分達とマスターが暮らせる空間を造り出したという経緯があった。
 たすくがマスターの元に来たのはそんな一大イベントの後ではあったが、その名残を感じさせる程度には物の始末が悪いのだ。
「あ~そうだった!『大事な書類は失くさないように、一ヶ所に纏めとこう!』って、用意してくれてたんだ!」
 それでも、すっかり根差してしまった性質は簡単には変えられないものなので、最早この家のモノの始末はでんこ達の方が詳しいと言って良い程に整頓され始めている。
 マスターは小走りで玄関に駆け、真新しい小物入れの中身と格闘する事数秒。目当ての書類を手にしたマスターは「あった~!」と歓喜の声を上げ、安心したのか玄関扉にもたれかかった。
「全くしっかりして下さいよ。ほら、お財布持ってきました。急ぎなんですよね」
 部屋の奥からたすくが小言を言いながら財布を持って飛んで来た。でんこの背の丈程はある長財布でも、たすくは軽々と運んできてくれる。
「サンキュ」
 マスターはそう言って財布を手にし、予め着替えてあったのだろう、ジョギングか近所への外出用にと決めているスポーツウェアのポケットにしっかりとしまった。
「そうだ、急がないと。せっかくだから、たすくも一緒においでよ」
 玄関を背にしたまま取手を掴み回す。扉が開き外気が室内に流れ込んでくる。日が暮れ始め、うすら寒さを纏った空気は寝起きの体には良く染み、たすくは身震いをした。
「わたしはいいです。他の子たちと……」
 そう言いかけて、家がとても静かだった事に気付いた。そういえばマスターの立てた物音で起きたのだった。
「なんか今日はみんな遊びに行っちゃっててね~。誰も居なくなっちゃうけど、すぐそこのコンビニ行って帰って来るだけだから」
 こういう場面、いつもなら我先にと突っ込んで来て場を有耶無耶してくれる子達がいるのだが、この場においてそんな助け船は期待できないと。ねっ? とダメ押しされたたすくは観念するようにスポーツウェアのフードの中へと飛び込んだ。
 それを確認したマスターは「よーしお仕事お仕事!」と盛り上げ、戸締まりをした。


「ちょっと走るよ」
 とは言いつつ、フード内の乗客を気にしてか極力揺れないよう小走り程度で先を急ぐ。ジョギングを趣味にするマスターとしてはちょっと物足りない速度ではあるが、歩くよりもちょっとは早い。
「気にしなくて良いですよ」
 乗客は気にする事もなく答える。フードの中で仰向けになり、オレンジ色の空を見つめた。雲ひとつ見えず、快晴のようだ。
「結構揺れるでしょ?」
「「でん」こなんで、揺れには強く作られてますから」
 どう言うことだろう?言葉の意図が汲み取れず首を傾けるマスターにたすくは急かすように、
「それより急ぐんでしょ。パパっと走って終わらせましょう」
「そうだね。しっかり捕まってて!」
 家から一番近いコンビニまでは歩いて大体5分程。走れば1~2分程だろう。わたしがついて来た事で間に合わなくなってしまったら申し訳ない。急いで貰らう事にした。それからあっという間にコンビニまで付いた事を、入店音と店員の掛け声を目印に目を閉じていたたすくは知った。


「たすくー!間に合わなかった!」
「え?」
 残念そうな半分、楽し気な半分。そんなマスターの声ではっとしたたすくは思わず驚きの声を上げてしまった。間に合わなかった?嘘でしょ?
「ATMの引き出し手数料かからない時間とっくに過ぎてたよ」
 なんだそっちか。とたすくは焦り駆けた心を落ち着かせる。時間を確認すると現在十八時十分。そもそも走っても間に合わなかったのか。
「支払いに来たんじゃないんですか?」
 そうそもそも支払いにここまで来ているのだから、ATMどうこうは関係無いハズだ。
「財布に全く入れてなかったんだよね。下ろさないと払えないの」
 あははとマスターは笑う。
 関係あった。基本的に支払用紙は現金が必要となる。わたしがわざわざ手渡した財布は何だったのか。まあでもカードがあったか。たすくは思い、だが決して口には出さず溜め息をついた。
「なんか悔しいよね~。後少し早く思い出してたら、コンビニで手数料なんて払わなくても済んだんだから」
 マスターのこの言葉を聞いて、たすくは嫌な予感を感じた。間もなくその予感は的中する。
「……よし!駅前の銀行まで行こう!勿体ないし!」
「……やっぱり」
 今後のは言葉で漏れてしまった。
 勿体ない。今までも何度もこの言葉に振り回されて来ていた。


 目的地は自宅より約五十分程の距離にある駅。この五十分と言うのは、バスでも、自転車でも、もちろん電車でもなく、徒歩での時間である。宙に浮かび飛べるでんこですら、これほどの時間を歩く、しかも観光でも何でもないと言われれば長いと口を揃えだろう。マスターと同年代の人の中で、マスターと同じように嬉々としてこういった移動に望む人がどれ程いるものなのか。
「友達も、殆どは付き合ってくれないんだよね」
 依然、同じような事を気にし、マスターに質問したでんこがいた。その時に帰って来た言葉がこうだったと、そのでんこがたすくに話してくれていた。現代の人間も程々に忙しく、程々に自分の時間を必要としている。
「1人だけね、旅好きな子が居て、声かけたらいつも付き合ってくれるの。でもね」
 またある日の事。友達に恋人が出来たとマスターがたすくに話してくれた時の話を思い出す。その事を伝えられてから、旅行にも散歩にもその友達をどうにも誘いづらくなったのだと言う。
「そうっすか。でも、マスターが誘わない方が良いと思うなら、そうした方が良いんじゃないですか」
 何か気の効いた事を言ってあげたいと本当は思った。しかしそう都合良く人当たりの良い言葉は出て来なかった。否定も肯定もしない、むしろその友達に寄り添うような返答になってしまった。
 もしも、マスターが自分の都合に友達を付き添わせる事で、相手の時間を奪ってしまう事を気にしているのだとしたら。
 たすく自身、人付き合いは苦手な方で、自分も認める卑屈があって、他のでんこ達ともあまり一緒にはいたがらない。 他者からの干渉が煙たくもあるたすくからしてみれば、その思考は「そっとしておいて欲しい」自分の気持ちに寄り添ってくれる思考であり、ありがたいものだと思った。
(わたしが巣に引きこもりたいと思うのと同じ位には大事そうっすよね)
 自分の時間をどのように過ごすのか。恋人というモノはどうもしっくり来ないが、たすく自身の大切な時間に置き換えて想像すれば、あっさりとその答えは出た。


 どれ程進んだだろうか。もう急ぐ必要もなくなったマスターはのんびりと歩き、それでも時々同じ道を歩く人々を追い越しながら、もう日も落ちきろうとする空を眺めていた。
 もう少し計画性を持って行動していれば。そう自分を戒めるように始めたこの散歩と、似たような事を何度繰り返したか分からない。結局の所、自身の得意分野に他ならない事を、勿体ないを口実に成就しているに過ぎなかった。
 忘れ物に気付いた時、真っ先にスポーツウェアへ着替えたのも、もしかしたらこうなる事を見越していてさえいたのかもしれない。そのスポーツウェアの、被られず首筋へ垂れ下がったフードの中にすっぽりと収まっているたすくは、寝るでもなく起きるでもなく、ただじっと大人しくしていた。
「フードの中、好きだよね」
 マスターが声をかけた。
「マスターがいつもカバン持ち歩いてくれるなら、その中に巣作れるんですけどね」
「手が塞がるのは嫌なの」
 何気ない、何度と交わした会話。たすく的には収まっていられる場所は欲しいが、無い物をねだっても仕方がないのでフードに収まってる、と言うことらしい。
「それにしては快適そうにしてるよね。このやり取り以外では文句も言わないし。あ、でもこの季節、そろそろ寒くない?」
 マスターの気にかけにたすくは「平気っすよ」と返事をして、平気である事に少しだけ違和感を感じ、自身の姿を見直してハッとした。
「あー、ラッピングのままで出て来てました。どうりで寒くないわけっす」
 黒字に黄色と白色で幾何学に彩られた斜め対照のデザインを胸部にあしらった、厚手のパーカーにロングソックス。ご丁寧に付属のマフラーも巻き付けて暖まで取っていた。いつの間に。
「いいじゃん。そのラッピング可愛いし。また着てくれてるね。」
 一番記憶に新しい冬。「足だしてるのは流石に冬じゃ寒い」というマスターの心遣い、というのは建前で、本心は「このパーカーめっちゃ可愛い!」という単純な衝動買いからたすくに至急されたラッピングである。その想いを知ってか知らずか、たすくは家にいる時はいつもこのラッピングで過ごしている。
「し、仕事するならいつもの服が良かったんすよ」
 一時期着なくなった時期があり、飽きちゃったのかと密かに心配していたマスターに「夏にパーカーは流石に暑いっす」と
返しており、最近また涼しくなり始めた為引っ張り出して来ていたのだ。
「そうなのね」
 普段よりちょっとだけ大きい声量でメリハリの大事さを訴えるたすくに、わざとらしく、そっけなく返す。思った事もあえて言うまいと心の中で呟く。
(とは言え、春頃迄はいつも着てくれてたもんね)
 可愛いと言われたからなのか、それとも寝起きの格好のまま外に出て来てしまったからなのか、どちらにせよ、お人形さんサイズの女の子が見せた恥じらいがとても愛おしく思えた。
 些細な、でもいつもはやれない、そんなやりとりをしながら見慣れた随道を抜けると現れる急な坂を登りきる。開けた通りに出て、眼前には並木道がずっと先まで伸びていて、少し先の下り坂へと沈んでいる。
「……見てよたすく!」
 足を止めたマスターが呼び掛ける。たすくはその呼び掛けに無言で答えて、フードから飛び出してマスターの顔を覗き、その視線を追いかける。
「……綺麗っすね」
 丘を登り高地に立った事で、今まで軒を連ねていた障害物に隠されていた夕日が一望できた。後数分で沈みきろうという太陽が、それでもと言わんばかりに強いオレンジ色を空に残していた。
「……遠くに旅行に行かなくても、ただそこら辺を歩いているだけでも綺麗だって思える景色があるから、こういうのも悪くないなって思うんだよね」
 ボソリと、言い聞かすかのように、マスターは呟いた。残り幾ばくも無い景色を瞳に焼き付けようとじっと見つめるマスターの、その視線のすぐ横で、たすくは少しだけ、あの時見知らぬ相手に寄り添いかけた事を申し訳なく思った。
「……そうすね」
 目的地の駅はもうすぐそこだ。日はあっという間に沈み切り、空に暗がりだけが広がった。


 また少しのとりとめのない会話を続けているうちに、目的地へたどり着いた。目下
急務としている、銀行ATMでお金を降ろし、その足で最寄りのコンビニへと赴き用事を済まる。これで今日の旅路で果たすべき目的は完了した。
 日暮れを迎え入れたこの橋上駅周辺は、立ち並ぶビルやデパートの明かりもそこそこに、電極を纏わせた柵と街灯によってメインストリートを照らされ、視認性だけでなく往来する人々の憩いとしても機能していた。
 橋下ではバスが行き交い、駅から流れ出してきた人々の帰りの足となっている。
 特にどうするでもなく、そんな光景を眺めながらぼーっとする事一分。不思議に思ったたすくが沈黙を破った。
「どうしたんですか、 マスター?」
 柵にもたれかかるマスターの前にふよふよとたすくが飛び出してくる。
「ちょっと疲れちゃったや」
 あはは、と、もたれた手をぶらぶらと揺らしながら笑って、続けて答える。
「今日はたすくと沢山話せたからかな」
 今度は正面のたすくに向かってニコっと微笑みかける。思ってもなかった言葉だったのか、ビクッと反応して、そそくさとそっぽを向いてしまった。
「からかわないでくださいよ……あ、そういえば」
 そっぽを向いたそばから、またマスターの顔を向き直し、目を指をさしてたすくは言う。
「この前、眼鏡の、鼻の所のパット。片方外れたって言ってましたよね?駅まで来たんですから眼鏡屋寄りましょう」
 指を指したのは目ではなく、その前に広がる眼鏡だった。こうやって顔と顔を付き合わせた事によって、数日前にマスターがぼやいてた事を思い出し…というより目視で確認出来たのだ。
 当の本人は「ああっ!?」と変な声を上げながら自身の眼鏡を取り外し、パーツの欠損を確認してかけ直す。
「完全に忘れてた……外れて数日も立つと、もう慣れちゃって意識してなかったわ……まだお店開いてるよね?」
「勿論。確認済みです。」
 いきましょう、とマスターを先導するようにたすくが飛び出す。ゴム性の為、皮脂や汗等によって徐々に劣化し、稀に千切れて外れてしまう事があるのだ。
 そうして眼鏡屋に赴き、パーツの欠損を伝え、たまたまこのお店にパーツの在庫があったので、その場で両側交換して貰う事が出来た。


「ありがと。流石我が家のレスキュー!」
 眼鏡屋を出て数歩進んだ所でマスターが切り出す。
「どうもです……でも茶化さないでください。慣れてないんですそういうの」
 そう言ってたすくはフードの中に潜り込んでしまう。
「本当の事でしょ?自分でも忘れてたんだもん、助かったっ……よ!」
 言いきるやいなや、マスターは自身の手をフードの中に突っ込んでまさぐり始める。たすくは突然の事に困惑の声を上げ、辛抱たまらずフードから飛び出した。
「分っかりましたって!……ありがとうございます。ああもう、びっくりした……」
「アハハ、ごめんごめん!……よし、帰ろう!」
 そう言って橋下へと階段を降りていく。今進んでいる側の道は、先程眺めていたバス停へと繋がってはいない。まさか、また歩くつもりなのか。
「たすくはさ、今日楽しかった?」
 自分の目線の高さでふよふよと浮かんでいるでんこは、唐突に問いかけられる。成り行きで連れ出され、予定もされてなかった移動をして。それでも不思議と、楽しくなかったと言えば嘘になってしまうようだった。反面、そんな事を素直に言えるようなら引っ込み思案なんてやっていない。たすくは反射的に返答に迷った。
「私は楽しかったよ。結果的にやること忘れてた事がやれた。夕焼けも見れた。たすくとも沢山話せた」
 たすくの返答を待たずして、マスターは今日の思い出を振り返り始めた。まるでこうなる事が分かってたかのように、妙な間一つ作らず。
「 他の子達とはわいわい話せてもさ、たすくは他の皆が居ると引きこもっちゃうから、こうやってのんびりお話する機会って中々なかったよね」
「そうでしたっけ?」
「そうだよ!」
 日頃の暮らしを思い返して見ると、確かに、他のでんこ達とマスターの会話には入り込むような事はしてこなかったし、家の中で顔を合わせた時自然に会話するだけだったような気もしてくる。お互い寝れずに夜更かししてる時とか。
 何度か二人でお出かけもした事はあるが、今日ほど気の抜けた日はなかったように今になっては感じた。
 お互いにそれなりの期間を共に過ごしているから、お互いにそれなりの距離感で接していられていると無意識に感じていたのか、振り替えってみると、マスターには案外気をかけさせてしまっていたのだ。知ってしまうとなんだがとてもばつが悪い感じがする。
「……そうすね」
「え?」
 うーん、と言葉を捻り出そうとしている素振りを見せ付けながら、たすくは自身の内に芽生えた罪悪感を少しでも摘みたい一心で言葉を選ぶ。
「わたしも……楽しかったかなって思います。今日も特に何もしてないですけど……話相手になってただけで喜んで貰えるなら
まあ……良いかなって気はします」
 声は少しのつづ先細ってはいるが、それでもしっかりと聞こえる声で。
「たまには、ですけど」
 にへへ、と笑った。本心か、照れ隠しか。どちらにせよ、マスターがこんな顔で笑うたすくを観るのは今日が初めて初めてだった。
「でも、やっぱり基本は1人でじっとさせて欲しいっす。他の子達と一緒に~とかは極力……」
 笑顔だったたすくの顔がスーっと真顔に戻っていく。その表情の変化を見て、マスターもまだ一つ忘れてる事があった事を思い出した。
 他の子達、つまり、自分達が出かける前に遊びに出ていた、家で暮らしているでんこ達。心なしかマスターの顔からは血の気がひいて、青ざめているようにも思える。
「どうしよう、戸締まりしてきちゃった!?今何時!?外真っ暗だし流石もうとっく帰って来てるハズ……!?」
「やばいっすよ……!ゆうさんに、マスターとお出かけしてたなんて事がバレたら、絶対に質問攻めに遭うのは間違いないっす……!」
「え、それには何て答えてくれるのか気になる。楽しみ」
「茶化してる場合じゃないっすよ!バス使いますよ!一刻も早く帰らないと!……あーもう、早く布団に入って寝たい……」


 あの後バス亭まで猛ダッシュして、たすくが調べてくれた最も早く出発する自宅最寄りを通るバスに、二人は何とか間に合った。出発時刻一分前。後少し気付くのが遅れたらと想像すると、玄関の前で震えてるでんこ達に申し訳ない気持ちで一杯になった。否、既に申し訳ない気持ちで一杯である。
 運良く座席は空いていたので、突然の全力疾走に付き合ってくれた足と肺を休ませようと腰かける。一息ついた所で、急ぐ為にポケットに押し込んでいたたすくが飛び出して来て、座席の窓際に立つ。
「そういえば、さっき言いそびれたんですけど」
 バス車内、他の乗客の目もあるので言葉は使わず目でたすくを追う。他の人間には窓の外を眺めているように見えるだろう。
「ちょっと前に話してくれた、恋人が出来たっていう友達さん。今度遊びに誘ってみたらどうですか」
 ああ、そういえばそんな話したかな、とマスターは思考を巡らせた。二人して夜眠れないと起きてきて、たまたま鉢合わせした時だ。
 でもどうして今その話なのか、すぐには思い付かなかったので、窓ガラスに「?」を書いて返事とした。
「わたしが思うに、きっと喜んでくれると思いますよ」
 たすくは最後にそれだけ残して、もう用を終えたのだと言わんばかりにササッとフードの中に潜り、そして一瞬の内に寝息を立て始めた。

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