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【和訳】Heavener - Invent Animate


"だから、どうか目を覚まして"
"かつていた君"
"いつも傍にいた、君"

Stay awake, my Heavener
(Heavener)



Release: 2023/9/14
Vocal: Marcus Vik
Compose: Trey Celaya, Brody Smith, Keaton Goldwire, Marcus Vik
     & Robert Sherraden
Produce: Invent Animate & Landon Tewers



I will wait, as I'm already home
I'm already home
I will stay, if you're all on your own

(Heavener)
待っているよ、僕たちの家で
いつまでも君を待つ
たった一人でいる君よ

As water falls on where we slept
Show what you saw and what you felt
All in pain, hurt by the rain
(Stuck in the same place, where we wept)

僕らの寝床に、水が落ちてくるとき
君の見聞きしたものが映し出される
それは降りしきる雨に流された、痛み、苦しみ
僕らは立ち尽くして泣いていた

So I will wait, 'cause I'm already home
I'm already home
I will stay, if you're all on your own
You won't be alone here with me

だから待つよ、先に家に着いてるから
君がずっと一人でいるのなら
ここに来れば、二人でいられるよ

Sunshine, my light
You hold my heart
Sealed and untouched, afar

光よ、太陽の輝きよ
君に釘付けられた僕の心は
封じられて、誰にも触れられず、遠くに

(Yeah, you)
Swim in pain (hurt by the rain)
Stuck in a place, where we wept

君は
痛みの雨の中を遊泳する
僕らが泣いていた場所で、今も立ち尽くしている

I will wait, 'cause I'm already home
I'm already home
I will stay, if you're all on your own
You won't be alone

きっと待つよ、僕らのあるべき場所で
ずっといるよ、まだ一人でいるのなら
君がいつか、一人にならないように

The clouds will part
The sun will smile
And burn away the fear inside

浮かぶ雲は割けるだろう
陽光はいずれ差すだろう
そして巣食った恐怖は、焼き尽くされる

My heart, my soul be with me 'til the end
Stay awake, my Heavener
(Heavener)

この身が滅ぶまで、君の傍を離れない
だから、どうか目を覚まして
かつていた君
いつも傍にいた、君

I will wait, 'cause I'm already home
I'm already home
I will stay, if you're all on your own
You won't be alone here with me

きっと待つよ、僕らのあるべき場所で
ずっといるよ、まだ孤独でいるのなら
君がもう、一人にならないように
ここにいるよ

(Heavener)
(Heavener)
(Heavener)

かつていた君
いつも傍にいた君
いつかまた会う、君





 Heavenerという単語は調べた限り固有名詞しか存在しません。アメリカ合衆国のオクラホマ州にある地名、あるいはその地名のもととなった人物の名前、というのが、調べた範囲で出てきた用例でした。
 楽曲『Heavener』ではmy Heavenerという形で固有名詞の冒頭に所有格を付けられています。固有名詞に所有格をつけること自体が個人的には見たことのない用例なのですが、気になるのはHeavenerとはこの歌詞において何なのか? です。Invent Animateはテキサス州を拠点とするバンドですが、この曲名がオクラホマ州の地名を指しているとは少し考えにくいように思います。歌詞では、IとHeavenerが共有していた「家」らしきものの存在が示唆されていて、そこに先に帰っているから、いつかまたそこで会おう、という歌詞に見えます。

 俺がこの歌詞を見て思い出すのはボブ・ディランの楽曲『Man of Constant Sorrow』です。「悲しみのたえない男」という歌い出しのこの楽曲は厭世的にも決別のようにも見える曲で、歌詞では故郷のこと、理想郷のように描写される「神様の庭園」について語られます。『Heavener』も天国を意味するHeavenに接尾語-erがついた単語ですので、天国やこの世ではない場所を思う歌詞のように見受けられます。


I'm a man of constant sorrow.

I'll say goodbye to Colorado where I was born and party raised.

My face you'll never see no more.
But there's one promise darling.
I'll see you on gods golden shore.
俺は悲しみのたえない男
俺は生まれ故郷 安らぎの地コロラドに別れを告げ――
もうお前が私の顔を見ることはないだろうけど
でも、ひとつ約束するよ
神様の庭園 その岸辺で きっとまた会おう――

芦山 - 大芦山文學紀要 収録『コロラドから来た男』 劇中訳より引用

 (↑東方Projectを1ミリでも知っていたら読むべき傑作の漫画です 俺はもう何年も読み返しています)


 『Man of Constant Sorrow』は孤独な男の独白のように思える曲で、そこには寄り添う者も明確な他者からの救いもなく、ただ男が希求するのは故郷のことばかり、という曲に見えます。それはひどく悲観的で厭世的に映るかもしれませんが、少なくとも俺にとっては、これはとても正直な姿勢だと思うのです。人によって大小はあれど、人間は分かち合えない孤独というのを誰しも必ず持っていて、その部分は自分にも他人にも誰にも埋められない、ただ自分ひとりで慰めるしかない心の空洞があると俺は思うからです。どんなに立派な人になろうと、どんなに理想的な人と共にいようと、そうであればあるほどに、孤独は、「分かってほしい」という希求は浮き彫りになってきて、やがてそれは絶対に、この世の誰にも理解されないものなのだ、と気付いてしまうときが来るように思います。

 これと比較すれば、『Heavener』に関しては"my Heavener"という特定の人物を歌い手は待っていて、その人物と巡り会いさえすれば、歌い手の心は救われるのだ、という、厭世や諦めとは少し違う、希望に満ちた様相を持っている歌詞に見えます。一見、みえます。ただ、俺は、そうじゃなくて、『Heavener』に関しても『Man of Constant Sorrow』のような厭世や諦めが土台に含まれているんじゃないか、と思えてなりません。

 Heavenerというのは「喪失した人/物」であるように思えます。それは亡くなってしまった人であったり、壊れてしまったものであったり、失って戻らない純心や夢、理想を指しているように思えます。それはけっして分かち合えないし、求めても取り戻せることはない。心の求めるカタチそのものが目の前に現れることはない。でも、心に描いてしまったそれは、生きる時間の時々において、欲しくてしょうがなくなる。然るに一生涯、孤独を抱え続けるしかない。まるで、一生涯をまっとうすれば、かつてあったはずの生き別れた人/物とふたたび天国で逢えるかのような、そういう希望を信じて生き続けるしか、救いがない。

 この曲は、あくまで厭世的さを前面に出さないように、「救い」の部分をいつか人が手にすることができると信じた、祈りのような曲なのだと思います。ボブ・ディランの絶望と厭世のようなものを通底しながら、あくまでいつか救われる未来を願って歌う、そういう曲だと思います。
 それは人によって、神様に映ったり、天国に映ったり、大事な人であったり、失った理想であったりするのだと思います。


 "なにも聞こえない"
 そして気づいたんです。
 "なにも聞こえない、なにも感じない"
 それが普通の人間のすべてなのだと――

 人間はなんて孤独なのだろう。

芦山 - 大芦山文學紀要 収録『コロラドから来た男』