詩 扉
詩 扉
その扉は
たしかに開閉して どこかへ繋がっている
けれどわたしは
出入りを許されなかった
背丈が低くて ドアノブに手がかからない
なけなしの体重で押すと 後ろから手が伸びてきて
だめだよと抱きかかえられる
そのたびわたしは 泣いてた
誰かが出入りするのを たしかに見たのに
わたしには許されない状況に 抗議していた
いま わたしの背丈は伸びて
それでも扉は開かない
異界渡りの友人の背が
ふらと 扉をすり抜けて
その瞬間にだけ 向こう側の
とびきりの輝きが 網膜を焼き払って
ああ いつもこの心臓を
燃やすだけ燃やして立ち去る
そうして待ちぼうけだけを食らう
異界渡りは帰ってきて
しだいに彼女の夢と現は混じりあい
夢遊気味な会話ばかりになって
周囲を当惑させながら
それでもいつも 夢と現の扉を
勝手に渡る
二の腕に傷を遺してもなお
異界渡りは止まらない
そうして 帰ってきたら
とびきりの ひとりよがりの
思い出話を振りまくんだ
いま わたしの背丈は伸びて
扉を渡ろうとするきみの手を
抱えて止めることだってできる
きみの身と なけなしの社会性を案じるなら
現実に留めることだって できる
けれど
その扉に触れたとき 体を持ち上げられた
あの日のわたしの訴えが
向こうの景色に 焼かれた心臓が
きみを縛り付けようとする腕を
必死に焼き尽くそうとするのが
わかるから
禁忌ばかりの
明日も知れない
きみとわたしの 危うい世界へ
互いに追い付いたり 追い越したりしながら
この憧憬と焦燥を
焼き尽くしながら
扉を開けよう
わたしに許された方法を見つけて
いつか 開けよう
東方Projectの音楽CD『秘封俱楽部』シリーズに登場する大学生『宇佐見蓮子』を基にした詩