詩 真昼間の憧憬
詩 真昼間の憧憬
陽光の足音よ
束の間の暗幕を
乱暴に引き裂いて
もう一度、始めろ と言うのか
無音 ではなくて
静寂を聴いている
限りある静謐に浸した肉体を
もう一度、呼び覚まそう と言うのか
誇りは粉々に折れて
希望は拙く爆ぜきって
背骨は柔く抜け落ちて
言葉の一つも吐きたくない
相貌を合わせるべき人はいない
信じるに値するものは一つもない
全霊を賭けるべき願いなど
この魂に 欠片ほども残っていない
それでもなお
温かい、無音の沼に
紅い血潮の、澱みに
くたばった心を 浸けることを
許しもしないで
きみは
もう一度、を
希うのか
きみは
恒久の眠りを
許してくれない
きみは
想像の放棄を
許してくれない
きみは
果てなくみずからに
傷をつけるわたしを
治癒しないまま
楽園、の名前を口にする
きみは
わたしの 現実世界において
薄っぺらくなっていく きみたちへの憧憬を
何度でも 何度でも
この脳漿に注ぐのだ
喉が焼き切れるまで
わたしが泣き尽くしたとしても
この 現実が詰め込まれていく
脳漿に
無理矢理 楽園を
上書きしていくんだ
全身の信任を預けられる世界は
もう、無い
全霊の夢想を抱えられる涅槃は
もう、どこにも無い
それでもなお
もう一度、と言って
きみの姿をした 眠りの獣は
くたびれた脳漿に
けっして忘れられない憧憬を
注ぎ込んで
何度、吐き戻しても
小さな両腕で、抱き締めて
注ぐ
零れていく憧憬を
何度でも、真昼間に
注ぐ
『東方深秘録』に登場する高校生『宇佐見菫子』
および『東方紺珠伝』に登場する獏『ドレミー・スイート』を基にした詩