無題01

I’d Rather See Your Star Explode - Slaves【和訳】

これだけのことを諦めて、まだ足りないっていうのなら
 くたばって横たわる俺を、どうか許さないでくれ
"

 アメリカのポストハードコアバンドSlavesから一曲、I'd Rather See Your Star Explodeです。
 バリトンの音域を持つJonny Craigによる歌唱とナイーブでヘヴィな演奏がズンズン心に来ます。悲しみが質量を持っている。重い。


Title: I’d Rather See Your Star Explode (2018)
Band: I SEE STARS (2012 - present)
Album: Beautiful Death (2018)
Vocal: Jonny Craig
Lyrics: Colin Vieira, Erik Ron & Jonny Craig


Kick me when I'm down, keep me on the ground
From the ones who I thought they would never leave

 立ち上がれずただ這い蹲る俺を
 蹴りつけて、動けないようにしてみろよ
 俺のもとを去る皆さんよ

Who gave you so much faith?
Who gave you so much power?
You turned it all against me

 その信念は誰が与えたんだ?
 その力は誰からもらった?
 あんたらはその全てを、
 俺を遠ざけるために使ったんだ

I'm feeling alive like it's the first time
But you're going, and you're going and you're gone tonight
I'm feeling alive like it's the first time
Never gonna be a part of me this time

 初めて会った時のことを覚えている
 だけどだんだんと遠ざかって、先へ行って、
 そして今夜、君は立ち去っていくんだ
 最初の頃の気持ちが、昨日のことのように思い出せる
 でももう二度と、道が交わることはない

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 きっと俺を見捨てるんだろう
 いつも俺のことを考えないようにする
 それは俺が、君を失望させてしまうからだろう?

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 君はきっと見捨てるだろう
 今までそうしてきたように
 俺に期待するだけ無駄だからってさ…

Just wait
 待ってくれ

Just wait
Just wait

 少しだけ時間をくれよ

Kick me when I'm down, keep me on the ground
There's no black and white when it comes to pain

 立ち上がれずただ這い蹲る俺を
 蹴りつけて、動けないようにしてくれ
 痛みはもう感じないから

All I gave up, it's still not enough
You're twisting my demons like there is no love
When push comes to shove that fine line gives up
I'm left with the feeling of chasing a rush

 これだけ諦めて、まだ足りないのか?
 俺の中の悪魔を、君は何の気遣いもなく捻り上げる
 張り詰めた細い糸が切れてしまったら
 押し寄せる感情しかこの手には残らない

I'm feeling alive like it's the first time
But you're going, and you're going and you're gone tonight
I'm feeling alive like it's the first time
Never gonna be a part of me this time

 初めて会った時のことを覚えている
 だけどだんだんと遠ざかって、先へ行って、
 そして今夜、君は立ち去っていくんだ
 最初の頃の気持ちが、昨日のことのように思い出せる
 でももう二度と、道が交わることはない

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 きっと俺を見捨てるんだろう
 いつも俺のことを考えないようにする
 それは俺が、君を失望させてしまうからだろう?

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 君はきっと見捨てるだろう
 今までそうしてきたように
 俺に期待するだけ無駄だって…

Just wait
 待ってくれよ

Gonna show what I've got left
You haven't even seen my best
Just wait

 まだ俺にできることはあるさ
 今からそれを君に見せるよ
 だから待ってよ、頼むよ

All I gave up, still not enough
Kick me when I'm down

 これだけのことを諦めて、まだ足りないっていうのなら
 くたばって横たわる俺を、どうか許さないでくれ

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 きっと俺を見捨てるんだろう
 いつも俺のことを考えないようにする
 それは俺が、君を失望させてしまうからだろう?

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 君はきっと見捨てるだろう
 今までそうしてきたように
 俺に期待するだけ無駄だって…

Just wait
 待ってくれ

Don't count me out, won't let you down
I'm never gonna let you down

 置いていかないで
 悪いことはしないから

(Don't count me out, don't count me out)
(Don't write, I won't let you down)

 どうか、どうか見捨てないで
 もう失望させたりしないから

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以下、訳詞の理由など。


〇冒頭のkick me when I'm downはニュアンスが違う

 個人的な観測範囲ですが、"kick me when I'm down"には直訳通りの「俺がしんどい時に俺を蹴りつける」という意味から転じて、「踏んだり蹴ったり」とか、それを行う対象に向けて(死体蹴りってそんなに楽しいか…?)というニュアンスを発している場合があります。BMTHのwhy you gotta kick me when i'm down?とか、Sleeping With SirensのKick Meとか見るとそんな使われ方をしています。
 対してこの曲の大半では、「落ち込んでいる俺を(より念を押して)蹴りつけてくれ」という懇願の意で使われている場面が多くあります。

Don't count me out, won't let you down
I'm never gonna let you down

 置いていかないで
 悪いことはしないから

 最後の歌詞がこれで締めくくられるあたりからも、自分を蹴りつけている相手を批判しているとは考えにくいのです。なのでこの曲では、kick me when i'm downというフレーズ通常よく用いられる「死体蹴りするなんて情けないなぁ」というニュアンスではないと考えることができます。

 ただ個人的に例外があると思っていて、それが冒頭の歌詞です。

Who gave you so much faith?
Who gave you so much power?
You turned it all against me

 その信念は誰が与えたんだ?
 その力は誰からもらった?
 あんたらはその全てを、
 俺を遠ざけるために使ったんだ

 これはかなり挑発的な歌詞で、「お前を育ててくれた大切なものを誰かを攻撃するために使うのか」という、良心の呵責を抱かせるような言い方をしています。これはkick me when i'm downの「死体蹴りなんて情けない」というニュアンスと似ています。よって、この歌詞の前のkick me when i'm downも、そちらにニュアンスを寄せました。

Kick me when I'm down, keep me on the ground
From the ones who I thought they would never leave

 立ち上がれずただ這い蹲る俺を
 蹴りつけて、動けないようにしてみろよ
 俺のもとを去る皆さんよ

 逆に、この箇所以外は「置いていかないでくれ、俺を除去しないでくれ」という歌詞が続くので、この部分だけ心境が若干違うと考えられます。

 これは恐らく、歌い手の元を去ろうとする人たちに対し、はじめは歌い手も強気で出ていたのだろうと思われます。しかし、次第に減っていく人々、信頼し長い間共にい続けることになると思われた人でさえも去り行く中、流石に不安になったというか潮が引きすぎでは…と疑念を持ち、ついには自分が悪かったと認めざるを得ない状況に追いやられていった、という過程が見えます。

I know you'll write me off
I know you're always gonna count me out
You think I'm gonna let you down?

 きっと俺を見捨てるんだろう
 いつも俺のことを考えないようにする
 それは俺が、君を失望させてしまうからだろう?

 「俺が見捨てられるのは、俺がみんなを失望させてしまうからだ」と自責と後悔の念に駆られている様子が分かります。冒頭の歌詞を除き、終始自分の中の悪魔を認めるような描写が続きます。

〇歌い手の攻撃性の根拠

 ここからはアーティスト個人について。蛇足ですが、参考までに。

 前述した「歌い手ははじめは強気だった」の根拠の一つとして、ボーカルのJonny Craigについて「結構自分を出すタイプなんだな」と思えるインタビューが存在しています。以下にて和訳。

The lyrics in the chorus are pretty self-aware. Do you think you're difficult to be in a band with?
 (インタビュアー)コーラスの歌詞はとても内省的で、自分をよく理解している言葉だと思います。あなたにとって、バンドを続けることは難しいことですか?

Oh, come on. You already know the answer to that. [Laughs.] I am, and I think it's just because I'm a very extreme personality. I don't hide anything, so it's not like everyone doesn't already know I'm kind of an asshole sometimes. And I'm working on that. When I started the band with Alex [Lyman, former guitarist], it was going so well; our personalities were so much alike that they clashed together so hard. He just started taking over this role of everyone hating him and I'm sitting back here like, “Alright cool, I don't really have to do much anymore.” [Laughs.]
 いやあ、その答えは君が既に知ってるんじゃないかな(笑)。俺がこんな歌詞を考えるのは、俺自身がとても極端な性格をしているからだと思うんだ。俺は何も隠さないから、俺が時々かなり嫌な奴になることは、みんな既に知ってるはずだ。今かってそうさ。アレックス(Slavesの前ギタリスト)とバンドを始めたときはとても上手くいったよ。あまりにも性格が似ていて、めちゃくちゃに衝突した。あいつがみんなに煙たがられ始めたのを見て、俺は座ってこう言うんだ。「わかるわかる、俺ももうたくさんだ」って(笑)。

Once they were all like, “We're leaving. We're done,” me and Colin [Vieira, bass] were like, “Let's take this time to put this thing back together, and let's do it the way we want to do it.” That way we don't have to worry about dealing with people that don't like us, or we don't like them or that aren't on the same page as us musically. I am a difficult person to work with.
 ひとたびそんな状況になったら俺は「終わりにしよう。帰れ。俺も帰る」なんて言っちゃうから、Colin(ベース)が「もう一度やり直して、やりたいようにやろう」って言ってくれる。ここまでやってようやく、好きじゃない互い同士とか、音楽的に同じ次元にいないメンバーとの心配事がなくなる。俺は一緒に働くのが難しい人間さ。

 「それは君が既に知ってるんじゃないかな」という返答にもあるように、Jonny Craigは過去3つのバンドを解雇もしくは実質クビにされたトラブルメイカーであることが周知となっています。
 あまり詳しく書きませんが、麻薬使用中に詐欺を働いてレコード会社から干されたり、麻薬所持で投獄されたり、バンドの予定をドタキャンしたり、など…。ちなみに、この点を考慮するとMV中の演出は結構ピッタリ当てはまります。麻薬中毒や精神的ダメージで搬送されている、レコード会社からバンドメンバー共々非難されている、一度女性を妊娠させて向こうから立ち去られ子供を見ていない、など。

 このインタビュー回答のエピソードから類推するに、Jonny Craigは最初から自分が悪いことを認めたがる人ではないと考えられます。そんな人が「流石に俺が悪かったんだな」と気付くに至るには、それなりに相当な量の仕返しとそれに対する疑念を抱え続けたのではないか、とも考えられます。
 「どうして信頼していた人ばかりが遠のいていくのか」、それを疑念に思った歌い手が、とうとう「自分が悪かったんだろう。なんてことをしたんだ」と気付き、もう一度やり直させてほしい、と赦しを乞う歌でもあると思います。

 これは上述したすべての内容を受けて完全に自己解釈をした結果なのですが、曲名I'd rather see your star explodeの意としては、冒頭の歌詞のように「お前らの輝きが粉々になってしまうのを見たほうが(自分から遠のいていくよりも)マシだ」と攻撃的に罵る、あるいは自分から離れていくことの苦痛をそれほど重く受け止めていることの証左であると考えられます。
 もしくは単に、「ダメな自分ごと、信じていた人たち(輝いていた過去、夢)が散り散りになってしまった方が(このままダラダラ生き続けるよりも)マシだ」という意味かもしれません。どのみち、ひどくナーバスになっていることは確かです。そしてそのバックボーンとして、ボーカルJonny Craigの麻薬中毒や犯罪によるリスナーやバンドメンバーへの背信行為に対する悔悟の念があると考えられます


 この曲の歌詞では本来「死体蹴り」として用いられるkick me when i'm downを「どうかそうして(死体蹴りをして)くれ」という意味で使用しています。それは、死体蹴りという「行った側が非難される可能性のある行為」を敢えて勧めることで、「自分自身が起こしたことに対する遅すぎた自覚とそのことへの絶望から、自分が立ち上がれない」という状況をさらに正当化させるような心理が働いているようにも見えます。要するに、「自分が酷いことをした相手に、さらに汚れ役を買わせようとしている」。「俺が立ち上がれないのは当然だよな」という状況を外から(しかも自分が酷いことをした相手から)作ってもらおうとしている。
 これは心がよっぽど弱った人間のやることか、あるいは自分で自分の責任を負えない人間が発する言葉であると考えられます。正直に言ってしまうなら無責任という言葉も当てはめられるくらい。反省としては下の下だと言ってしまえばその通りであるかのような、とても弱い人間像が見え隠れするような歌詞だと思います。

 ですが、下の下の反省だとしても、長年積み重ねた自分自身の誤解と認識を「間違いだった」と決める覚悟を持って立ち向かうのは勇気とエネルギーを要します。自転車を漕げるようになるまで何度も転ぶように、初めてスキーをして体の自由も効かずゲレンデに取り残されるように、自分が「できない」という事実に立ち向かい変わっていく過程には確かに苦痛があります。その苦痛を真摯に表現することで、同じ過程の経験者には実体験に基づいた共感を得られるし、その結果として、変化する痛みは誰しも持つものだ、ということをメッセージとして楽曲を発信することができると思うのです。
 単なる個人の痛みとして消費されるのではなく、自分にも確かにある変化の苦痛を多くの人が共有できるという構図が、楽曲を通じて描かれている。
 ただ嘆くだけでは情けないと揶揄されるような痛みも、素直に「俺にはそれが辛いんだよ」と歌うことで、「俺もそう思ってたんだ」というリスナーの拠り所になる。それがエモの一体系なのかな、と思えるような楽曲でした。


-おまけ-

 楽曲の評価ではなくアーティストのゴシップに片足を突っ込むので、楽曲の話とは切り分けて書きます。

 この楽曲をもって過去の自分と決別し、ここまで信頼してくれたメンバーと共に歩むことになるのかな、と思ったのですが、この後Jonny CraigはSlavesをクビになります。その理由は以下。

自分自身を信じれない人間にバンドが頼らなければならないのは不公平である。依存症は病気であり、Jonnyが必要な援助を受ける事を俺達は望んでいる。残念な事に、Jonnyはバンドよりも彼の中毒を選び、何も知らない俺達を国際便のチェックインで待たせ、自分は飛行機で自宅に帰ってしまったんだ。 -rockisnotdeadの和訳より Slaves側の声明

 なんでツアーのドタキャンやねん。反省したんとちゃうんか。

双方の発表を掲載しましたが若干のずれがある事が少し引っ掛かりました。バンド側は、Jonnyを”REMOVED"(解雇)したと伝えているのに対し、Jonnyは”STEPPING DOWN"(訳では離脱にしましたが脱退とも取れます)。REMOVEDとSTEPPING DOWN意味合いは似ていますが、Stepping Downの方が「降りた」といった若干緩い感じである事でバンドとJonnyの意識の違いが分かります -rockisnotdeadより

 なんかバンド側と本人とで話もすれ違ってそうだし。

 あとは2011年に、自身のMacbookを販売し16名分の取引金額だけ受け取って商品を渡さず連絡を切るという、普通に詐欺な行為を行っておりレコード会社から干されバンドからはクビにされているのですが、2020年にはまた自身のMacbookを売る投稿をしています。

 要するに、僕個人として、「楽曲を訳すにあたってバックボーンを調べた結果、この人、歌詞中で言ってたような反省をちゃんとしてるのか?この曲を通して伝えた嘆きに意味はあったのか?とか考えてしまった」ということです。

 楽曲として評価するのと個人を評価することは全く別次元の問題です。個人が楽曲の前後に何をしていたとしても楽曲そのものは何一つ変わりませんし、ゴシップによって楽曲の価値にまで影響が及ぶとしても、楽曲はその曲を書いた時点での心境をもって評価すべきだ、と思うのです。僕かって誰かって、明日意図せず誰かを傷つけたり犯罪者になるとも限らないわけですし、人のゴシップを笑って作品の評価を下げる行為を許容すると、自分の人生や大切なものに対して同じように「犯罪者が嗜好していることなのでクソ」と烙印を押されても仕方ないのですし…それは楽曲が持つ客観性や、解釈の余地を許す抽象性とは対極にある行為だと思います。

 …でも正直に言えば、上記は理想論で、作品も人間が作ったものである以上、その人がどんな人か次第で作品にまで違和感を持ってしまったりはするよなあ。とも思います。理想を叶えるのがアーティストだとも思いますけどね。

 ちなみに、彼について個人的に尊敬できる点として、「ここまでして全てのバンドを解雇されてもなお、ソロで音楽活動を続けている」ことです。その一点だけでここまでの評価が覆りかけるくらいのインパクトはあります。こんなに色々やらかして絶望してるのにまだ音楽できてるのはとんでもないメンタルだなあ。


以上です。和訳のついでにここまで読んでいただき、ありがとうございました。