詩 お出迎え
詩 お出迎え
くずおれた繁華街の
LEDライトの名残が
だれにも 看取られずに
今日も 昏く咲いてる
衛星写真にも
列車の車窓からも
その灯りは
ちっとも視えない
けれど
たとえ 名前を奪われても
または 名前を忘れられても
かつてあった灯りは
確かに
そこにまだ 咲いている
切れた
白熱灯ばかり並ぶ
墓地の
墓石のかたわらに
百年前の鈴虫が
鳴いてる
ぼくらはたしかに
ここにいたのです
と
鳴いてる
いま
その扉を開けるよ
だから 潜っておいで
知っているから
百年前も 千年前も
そこにいたこと
知っているから
百年後
彼岸をわたった
わたしたちの
開けてはならない
冥界の扉を
こっそりと
覗き見る
誰かが
いてくれますように
いま
地下高速鉄道の
隣席にて眠る
彼女が
さみしい場所に
一人 行ってしまいませんように
こっそりと
肌に触れる
『秘封倶楽部』シリーズの作品『卯酉東海道』を基にした詩です
2024年5月3日、東京ビッグサイトで開催される『博麗神社例大祭』にて頒布予定の詩歌集『天蓋の簒奪』に収録されている詩です。