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詩 戸棚にねむる朝陽


 詩 戸棚にねむるあさ




 陽が昇るまでは
 確かに手にしてた
 感慨とか
 熱情とか 愛とか しずくあめとか
 そういう暗がりは
 陽の光を前にして
 揮発するみたいに
 蒸発してしまうみたいに
 どっかへ消えちゃった
 信じてたよ
 ずっと伴に居ても
 きっと抱擁し続けられるだろう
 暑苦しくも
 ぬるくもない
 確かな温度が
 これから先 失われることはないって
 夜闇の中では じっと信じてたよ

 独り家の戸棚に
 寝室に 床に 机上に
 夥しく横溢する
 人形の表情の
 数だけ
 過去に
 揮発した信仰が
 ある
 朝日を拝んで
 凪いだ風が
 すべての物思いを 連れ去ってしまう前に
 冥闇でじっと見つめた
 あなたたちの感触を
 精一杯 這いつくばるように
 思い出そうとするの

 そうして やっぱり
 どれだけ頬を寄せても
 おんなじ形で
 取り戻せることはない けれど
 枯れたように思われた
 わたしの心に
 人形たちの触感が
 そっと 由来不明の
 水を差してくれる
 そこから
 正体不明の
 新芽がうまれて
 ああ、また
 脳裏に、眼裏まなうらに、
 あたらしい情景が
 浮かんでくる






東方とうほう妖々夢ようようむ』に登場する人形遣い『アリス・マーガトロイド』を基にした詩