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詩 不良天人


詩 不良天人



桃を齧る
天の恵みを携えた
枯れない水源をたたえた
桃の液で 服は染まる
少しずつ黄ばんで
少しずつ わたしは
わたしでないものに 近づく

天人の憐憫
父親の失望
故事を習う
染まる
染まりゆく
日々
桃を齧る
味がしなくなるまで
味覚と欲求が涸れ果てるまで
枯れない果実を ほふ

非想の地にて
望まれた姿を
果たした 私の
望みを聴けよ
だれか
この世界を 壊して
再生不能なほどに 壊して
求めに応じて
何を得ても
何を与えても
何も返してくれない
どこか間違った三界《さんがい》を
壊せよ

深淵の宇宙を睨んで
蒼穹の空中に浮かぶ
非想非非想の天蓋を
破り去って
もう一度
もう一度、やり直そう

桃を齧る
天蓋をねめつけて
じわり
齧る








東方とうほう想天そうてん』に登場する天人くずれ『比那名居ひななゐてん』を基にした詩です