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いい夢をみる(7) 1時47分

時計を見る。まだ2時だ。
時計を見る。まだ1時だ。
なぜか分針は、いつも47分を指している。
その謎を解くために、今からフィールドワークに出かけます。

そう言って、教授は自分の腕時計をしまった。腕にしていたはずなのに、どうやってかポケットにうまく収まって行った。胸には懐中時計がぶら下がっていて、頭には30㎝の壁掛け時計。背中には柱時計。彼女は時計人間だった。時計人間だから、この際、彼でも構わない。時計人間は、ポケットから先ほどの腕時計をもう一度取り出して眺めている。このまま23時間停止するのが一連のパターンである。今日はここで彼のへそに生えているゼンマイを強引に巻く。几帳面な彼女はいつだってしっかり巻いているけれど、今日はゼンマイを壊すのが目的だ。ギギギ、ギギギ、ギギギギギギギ・・・ブチ。30㎝幅のゼンマイをねじ切るのに、15人掛かりだった。大きめのゼンマイとはいえ、同時に握ることはできないので、大きなカブ状態。懐かしい風景にみんなでハイタッチをしてハグをして喜びを味わった。

残された空回るゼンマイ。小さな子供が回し始めたら、カラカラ音を立ててよく回った。カラカラの間隔が次第に早くなる。どんどん加速して、子供は驚いて手を離す。次第にブーンという音に変わって、風を巻き起こす。みんな体を使った後だから暑くなっていたので、風が汗を冷やして気持ちよかった。いい仕事をしたと思っているうちに、ブーンと言う音が、周囲の物と共鳴を始める。イーーーンと言う響きが物を揺らし始めて、全員の耳に入る。その音はとても気持ちが良いもので、お経やディジュリドゥを聴き続けたような感じに近かった。今年一番の大仕事を終えた気持ちにさせてくれる。加速したゼンマイは知らぬうちに空へ飛んで行った。ゼンマイのなくなった時計人間は、きっかり23時間後にいつも通りの動作をした。壊れたわけでもなく、何もなかったかのように。ゼンマイだけがない。1週間後、小さいゼンマイが生えてきていた。そうして、15人の時間が動き出す。これが時計人間たちの日常だった。私は全然理解できなかったので、全員に持参したオイルスプレーを注してあげた。時計人間たちは大喜びして、こうして私は時計人間の王になった。王様はとても退屈な仕事だったので、1日の23時間は止まって、時間が移りゆく様を眺めることにした。分針は47分。47分がゼンマイを抜かれた時の共鳴が最も良い時間なのだと発見するのに少々苦労した。そうこうしているうちに、そろそろ懐中時計の季節がやってくる。時計たちにとってのささやかなお祭りの季節。クラシカルな懐中時計を愛でる事で、空を飛んでいるような気分になる。その気分の中で、各々気に入った相手のゼンマイを空中で見つける。見つけて、捕まえてペアになるとかではない。見つける。見つけて嬉しくなる。ただただそれだけで満足だった。このころにはもう分針が45分に戻っていたので、驚くことはない。すごく安心することだった。そうして、私はあっさりと眠りに落ちた。

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