孤独と性欲を抱きしめる-映画『シェイプ・オブ・ウォーター』感想-

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』を観た。
半魚人のような怪獣と声の出ない女性が恋に落ちる、ラブストーリーだ。
途中、無性に好きな人のことが思い出され、作品を観ながらも、どこかでその人との逢瀬が脳内再生されていた。

それはなぜだろう。
おそらく、私も本作の登場人物たちと同じく、寂しいからだ。

冒頭、イライザの仕度風景から映画は始まる。
バスタブに湯を溜め、卵を沸いたお湯に入れる。
茹で上がるまでの間、バスタブに身を沈めて、そのまま自慰に耽る。
風呂から上がり服を着て弁当用のサンドイッチを作る。
イライザは毎日出勤前にこの一連の行動を行う。イライザの日常に、性的欲求が常にあることがわかる。

イライザの隣人、ジャイルズは同性愛者で、チェーンのパイ店の若い店員に好意を寄せている。
仕事がうまくいかず落ち込んでいるジャイルズに気さくに話しかける金髪の若々しい店員。
しかしジャイルズが彼の手を取った瞬間、態度が豹変する。ジャイルズに侮蔑のまなざしを向けるとともに、店へ入ってきた黒人カップルを追い払う。

唯一の友人であるイライザが愛する生き物に対して、ジャイルズはこう言う。
ほかに仲間はいないのか。ずっと1人だったのか。お前も私たちと同じ、孤独なんだな。

本作は、孤独な者たちの物語だ。
これまでの寂しさを埋めるように、イライザと不思議な生き物はお互いを求め合う。
性的な触れ合いは手っ取り早く、孤独を埋めてくれる。
性欲が孤独であることの裏返しだとしたら、日々自慰に耽るイライザの孤独はどれほどのものだっただろう。

イライザは「彼」に惹かれる理由をこう述べる。
彼は私が話せないことを知らない。彼はありのままの私を見てくれる。

話せないというハンディキャップは、否応なくフィルターのかかったまなざしを招く。
彼だけが、イライザを真っ直ぐに見つめ、受け入れる。
水中でイライザを抱きしめる彼のように、観る者の孤独も性欲も劣等感も丸ごと包み込んでくれる、温かい映画だった。

#コラム #映画 #シェイプオブウォーター

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