おうし座6度 サビアン

切り立った谷間に架ける、建設途中の一本橋

未亡人のご婦人は墓を閉じ、バラを供えた後、はらはらと涙を流していました。

「あの人、バラが好きだったのよ。……私の誕生日にも毎年違うバラをくれたわ。」

旅人はぽたぽたと彼女の涙が墓石を濡らしていくのがいたたまれなくなって、彼女の震える背中をなでながら、遠くに目線をやりました。

正面に見えたのは、山々の中に架かりきっていない途中の橋でした。切り立った山の渓谷に架けようとするもののようですが、まだ短く、途中のようでした。

旅人は、彼女もこんな感じなのかもしれない、と思いました。

ーー切り立つ渓谷に橋を架けることは危険だ。とても慎重にやらないと谷底に落ちてしまうかもしれないから。それでも彼女は決心して、勇気を振り絞って繊細な神経を探り探り、進むことに決めた。でもまだ回復途中なんだ。

ひとしきり泣くと、ご婦人は泣きやんだばかりの目を細めて見せ、旅人の手を握って言いました。

「引き留めてしまってごめんなさいね。でも、ありがとう。あなたが来てくれて本当に良かったわ。」

旅人は、ご婦人があの橋のように時間がかかりそうでも少しずつ悲しみの向こう側に渡っていけると良い、とそんな風に思いながら墓地を後にしました。