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自転車屋の屋良くん

朝、心療内科に行く時に自転車のペダルがおかしくなっていることに気づいて、帰ってお昼を食べてからいつもの自転車屋さんに行った。

いつもの自転車屋さんのことは同居人と私の間で「イケオジのところ」と呼んでいる。店主がとにかくかっこいいのだ。多分40代くらいで、スタイルが良くて、ジャニーズの屋良くんに似ている。

お店自体は商店街の外れにあり、いかにも「街の自転車屋」という感じの佇まいで、いつも軒先でお客さんがイケオジに修理を相談したり勝手にタイヤに空気を入れたりしている。

私の自転車はこのお店で2年前、銭湯で番台のアルバイトを始めた時に買った。
その頃ちょうど乗っていた自転車が高円寺で撤去されたばかりだった。高円寺では2度撤去され、1度目に回収しに行ったとき移送場所があまりに遠くて2度目はもう取り戻す気力がなかった。取りに行かなくてごめんなさい。

バイトすることになった銭湯は大きな川を超えた隣の町にあり、電車で行くとなると(家から駅:徒歩20分)+(電車:2分)+(駅から銭湯:徒歩20分)かかり、アクセスが微妙に不便だ。坂の登り降りもあったので、電動自転車を探していたのである。

電動だとママチャリか、三茶でしか見ない二輪くらいゴツいやつ(多分e-bikeと呼ばれるやつ)に二極化していて、適度に普通で適度にかわいい自転車がなかなか見つからなかった。
(関係ないけど、自分は生来なんにおいても「適度に普通であること」に悪い意味で囚われているなと思った。)

そんな時に母親のすすめで「イケオジのところ」を訪ねたところ、今乗っている自転車に出会ったのである。

電動だが大きなカゴがついていたりサドルが低かったりせず、必要最低限といった感じのシンプルなつくり。イケオジが「今この色しかなくて」と言っていたので他にも何色かあったのだろうけど、渋い小豆色が気に入った。
イケオジは自転車を購入した時に「一ヶ月に一回は見せに来て下さいね」と言ってくれたが、まだ2年で2,3回しか行けていない。

イケオジは風貌だけでなく振る舞いもスマートで、今日もペダルを触るなり「このままだと乗ってる間にスポンって抜けちゃうところでしたね〜」と言い、流れるように交換してくれ、タイヤに空気を入れながら「無人の駐輪場だとぶつけられたりしちゃうから、停めるなら“おじさんのところ”がいいっすよ。僕も駅使う時はあそこにしてからトラブルなくなりましたね」とアドバイスもくれた。おじさんのところとはシルバー人材センターのおじさんたちが常駐している駐輪場である。
イケオジもこの町から出て電車でどこかに行くことがあるんだなぁ、といらない想像をしてしまった。

ペダル交換の2,000円を払い、空気がパンパンに入った自転車に乗ってホクホクした気持ちで帰った。

イケオジのところに行ったあとは、ずっと悩んでいた不調に病院で病名をもらった時と同じような、安心して晴れ晴れした気持ちになる。しかるべきところで対処してもらった!という満足感なんだろうけど、なぜか自己肯定感も上がる気がする。

「行きつけ」とか「いつもの店」がもっとあると、こういう気持ちになれる機会も増えるんだろうなと思う。

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