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母の俳句

昨年の2月なかば
母が旅立つ3ヶ月ほど前のこと

春らしい花をありったけ
花束にしてもらい母を見舞った

花が好きなので
きっと喜ぶだろう
花のパワーが
きっと母に元気をくれるだろう



最初大きくなった母の目が
すぐさま細くなった

香りがいいねぇ と
何度も嗅ぎたがった

ガラスの花瓶に挿してからも
何度も手を伸ばし
回して見せてと言う

菜の花
チューリップ
これはなんだっけ
スイートピーか
これは?
思い出せない…

ストックだよ

おおそうか、ストックだ
なんて綺麗な紫

ぐるっとひと回り
ひとつひとつ
端から名前を思い出している


ふいに
紙と鉛筆と言う

俳句が生まれるのかな
長年俳句をやってきた人だから
母の口元を見ながら待つ



にもらう花束 春をふんだんに


おお…
春をふんだんにとは…

急ぎ書き留める


また別の日
蝋梅ろうばいは咲いたかと聞く

まだだよ
まだか…

繰り返し尋ね
待ち侘びる日々

咲いたよと告げると
微笑んで

蝋梅ろうばい一花いっか開ける日和かな


のちに満開の蝋梅をひと枝いただき
見える場所に挿した


これが最後の句となった









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