音楽をアルバムで聞くことの意味と、プレイリストとの関係

プリンスのスピーチ

プリンスが「アルバムって覚えてる?」とスピーチしたのは2015年のことのようだ。

5年経った。

楽曲をサブスクリプション制ストリーミングサービス(Spotify, Apple Music, etc.)で聞くことは日本でも当たり前になり、

なぜか(かけっぱなしできる都合上?)ストリーミングサービスではプレイリスト作成が盛んなので、

ますますアルバムの存在感は薄くなっている…と思われる。

今回は時勢にあらがい、なぜアルバムは素晴らしいのかについて書こうと思う。

33回転、60分

アルバムの長さやフォーマットを規定したのは、

レコード盤の収録時間であるようだ。

33回転盤は片面30分ほど収録できたらしく、片面がA面、もう片面がB面と呼ばれていた。

現在でもアルバムと呼ばれるものは合計で60分前後であることが多く、

A面に当たる部分にはキャッチーな曲が収録されることが多いと思われる。

レコード盤のフォーマットが、物理媒体を無くしつつある現在でも使われているのは、

この長さ設定が適切だったからだと思う。

(33回転盤の設計者もこの長さが適切だと思ったからそうしたのだろう)

サージェントの影響

なんでもかんでもザ・ビートルズが始めたと言われる風潮にはちょっと違和感を覚えなくもないが、

レコードアルバムの芸術的地位を高めたのはビートルズである、あるいは少なくとも、貢献は大きいようだ。

ビートルズのデビューごろは、アルバムにはヒット曲のカバーを数曲混ぜるのがお決まりであった。

が、ビートルズは3枚めのアルバムを全曲オリジナルで固めている。

さらに彼らは、シングル曲とアルバム曲がかぶらないよう配慮してもいる。

そして傑作と称される「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」を出す。

このアルバムはコンセプト・アルバムと呼ばれることになる。

アルバム全体が「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という架空のバンドのライブ盤であるというていであり、

ゲストが招かれたりリプライズ、アンコール、観客の声と言ったライブっぽいギミックが取り入れられている。

アルバムを、溜まった曲の保存用にするだけではなく、一つの表現にしてしまったのでとても評価された。

(曲自体は他のアルバムのほうが好きという声も多く、自分もそのクチ)

その後ピンク・フロイドなどプログレ系なミュージシャンたちによってアルバム表現は進化・普及していった…という感じだと思う。

曲順の奥の深さ

さて、ここまでは予備知識で、

ここからが自分の考えるアルバムの素晴らしさである。

アルバムには曲順がある。

これは野球で言うところの打順に似ている。

野球の打順は大雑把に言って、

- 上位に出塁できて足の早い打者

- クリーンアップに打力のある打者

- 下位は強いて言えばチャンスに強い打者

が並ぶ。

さらに左打者と右打者をなるべくなら交互に配置したいという気持ちがある。

アルバムでは(個人の感想です)

- A面1曲めに何らかのインパクトを放つ曲

- A面上位にキャッチーな曲

- その後、徐々にキャッチーからディープに以降

- A面最後にちょっとパンチのある曲

- B面最初にまたキャッチーな曲

- B面中盤はディープに

- B面ラストで大曲

という流れが一般的かと思う。

さらに隣り合う曲どうしの「つなぎ目」も意識される。

打順もアルバムの曲順も、

例えば「3番目」といった絶対的位置も重要で、

なおかつ前の曲(打者)との兼ね合いという相対的位置も重要なのだ。

そんな中、手持ちの曲(選手)をうまく並べていく、ちょっとしたパズルである。

なお、A面B面が無いCDや配信のアルバムも多いってか主流だが、

なぜか上の方程式は当てはまったりする。

おそらくはA面B面が有った時代の作品を参考に作られているのではないかと思う。

雰囲気の統一性

いいアルバムには「統一感」があるものだ。

しかしながら音楽を要素に分解するのは難しいうえに、そんなことをすると良さが見えなくなってしまうことも多い。

なので「統一感」について語るのは難しい。

できる範囲でやると、

まず、(1) 曲調の統一感が一番に考えられる。

例えばメロウなアルバム、という場合、メロウな曲が多い。当たり前のことを言うようだが。

しかしながら、全曲メロウで統一するのは何か違う気がするので、難しいところではある。

少しぐらいハイテンションな曲を混ぜてほしい気持ちがあるのだ。

イメージするのはこの辺?


(2) 音響の統一感

これはあまり言及されにくいところだと思うが、

例えば70年代の名盤は全曲70年代風味である。

また当たり前のことを言ってしまった…

しかしベストアルバムやアンソロジーを考えるとき、音響の統一感もまた重要だ。

イメージするのはこの辺。


(3) 歌詞世界の統一感

歌詞が現実的だったりファンタジーだったり絡み合っているアルバムもいいが、

統一感という面では劣る。

あとなんか作詞者のパーソナルがよく出てる歌詞世界を醸し出されると名盤になりやすい気がする。

これらの統一感をいかに表現するか、

また尊重しつつも他の条件(曲順とか)にうまくアジャストしていけるか、

と言ったところをアルバムの良さとして考える。

プレイリストとの関係

しかしながら、これらのアルバムの特徴はプレイリストでも再現可能

大きく2点、曲順と統一性を挙げたが、

プレイリストも曲順は超大事だし統一性というかテーマ性のしばりはアルバムよりきつい。

じゃあプレイリストでいいじゃん、と言われるとそうかもしれないとなるのだが、

プレイリストがアルバムに比することのできる「芸術」だとすると、

「プレイリスト作者」の影響が「ミュージシャン」の楽曲に出てきてしまう

つまり、ボブ・ディランならボブ・ディランワールドを味わいたいとき、

プレイリストで聞くと(プレイリストが編集という芸術であるがゆえに)、「ボブ・ディランワールド」ではなく「ボブ・ディランフィーチャリングプレイリスト作者ワールド」になってしまう。

自分がアルバムを聞き続ける理由はそのへんにあるのではないか。

すなわち、自分は、普段は曲が一番大事という顔をしていながら実のところミュージシャン個人のファンなのではないか。

と、思わぬところに話が巡ってきたがこのへんでおしまい。

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