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ミッションの大切さ:某コンサルティング会社社内報インタビュー

大事な“価値観”は、何度でも伝える。「任せてみる」、「適切なフィードバックをする」 その繰り返しで部下は育つ。部下がついてくるリーダーとは?〜元スターバックス コーヒー ジャパンCEO岩田松雄氏インタビュー〜(挑戦者たち。Vol.16)

「挑戦者たち。」シーズン4 “育成” の最終回となる今回は、スターバックス コーヒーやTHE BODY SHOPといったグローバルブランドの日本におけるCEOを歴任し、現在はリーダー育成のためのコンサルティング、講演、執筆などの活動を精力的に展開している岩田松雄氏へのインタビューをお届けします。

仕事で成果を出す能力である“才”だけでなく、人間力にあたる“徳”を磨かないと、たちまち経営者に見抜かれてしまうと岩田氏は話します。また、リーダーが部下を育成するうえで、岩田氏は「任せること」と「事実に基づいたフィードバック」の繰り返しが大事だと語ります。今、部下を持つ人も、これからリーダーになる人も日ごろから心がけたいマインドセットについてご紹介します。

■岩田松雄氏プロフィール

1958年、大阪府出身。大阪大学経済学部卒業。UCLAアンダーソンスクールにてMBA取得。日産自動車、ジェミニ・コンサルティング・ジャパンに勤め、日本コカ・コーラの役員を経て、アトラス代表取締役社長、イオンフォレスト(THE BODY SHOP)代表取締役社長、スターバックス コーヒー ジャパンCEOを歴任し、ブランド再生や事業の黒字化、売上・利益の増加、成長戦略の実現などで手腕を発揮。2011年にリーダーシップ育成を主軸とする(株)リーダーシップコンサルティングを設立し、2012年より約1年間、産業革新機構に参画。立教大学ビジネスデザイン科 特任教授、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師も勤める。

UCLAよりAlumni 100 Points of Impactに選出される。

■人材育成の第一歩は“ミッション”や“価値観の共有”

――岩田さんは経営者として「人がすべて」の信念を掲げ、従業員の成長やモチベーションアップを企業の再成長の原動力となさってきました。

 xxxxxでは昨今、多くのリーダーがメンバーの育成で試行錯誤しています。メンバーのマインドを変え、モチベーション向上を実現するにはどのようなことが必要だとお考えでしょうか?

岩田松雄氏(以下、岩田氏) まず、私は何より企業のミッションを徹底させることが大切だと考えています。ミッションとは“企業の存在理由”です。

スターバックス コーヒー ジャパンやTHE BODY SHOPは、もともと素晴らしい理念も持っていた会社です。たまたま就任当時は業績が低迷していました。私が最初に行ったことは“原点へ戻る”ことでした。自分たちの持つミッションの素晴らしさを再認識してもらうことでした。

スターバックスのお店では、いつもすばらしい接客を実現できています。それはお店で働く一人一人の「パートナー」達にミッションが浸透しているからです。

ミッションやビジョン、企業理念を作ることが重要なのではありません。それらを額縁に入れて社長室に飾ることに大した意味はありません。トップ自ら先頭に立って、ミッションを本気になって具現化しようとしないといけません。しかしこれは一朝一夕でできることではありません。

私はトップとして、定期的に全スタッフへ“レター”を出し続けました。お店で働くパートナー人一人に “会社の向かっている方向”や“自分の想い”、“ミッション”について語りかけ続けました。

気がついたいい話は褒め、おかしいなと思ったことに対しては“それは当社らしくないのではないか”と指摘する。トップとしての率直な気持ちを伝えたくて始めたこのレターは、社内の多くのパートナーが毎回楽しみにしてくれていました。

――最近は働き方改革と言って多様な働き方が話題になることも多いです。

私は、そもそも正社員や契約社員、アルバイト、パートなどと働き方で差別すること自体がよくないことだと考えています。なんとなく社員が一番偉くて、次に契約社員と序列をつけている風潮があります。これらはワークスタイルの違いでしかなく、その違いをもって誰が偉いかを決めるのはおかしいことです。大切なことは働き方ではなくて、会社の対する“貢献度で評価すべき”ということです。立場に関わらず、“同じ船に乗っている仲間”なのです。

数年前、ある企業から講演依頼を受けたのですが、そこの社長さんがおっしゃるには「息子がスターバックスでアルバイトをしているが、自発的に無給で終業後、アルバイトの人たちが集まって“どうやったら店がもっと良くなるか”を話し合っているという。自分は経営者として、正社員でさえ時間外にそうした自発的な活動をするという姿を想像したことがなかった。どうしてもスターバックスにはどのような秘密があるのか知りたかった」とのことでした。

アルバイトといえど同じ仲間パートナーとして接し、スターバックスのミッションを共有化しているから、そのような取り組みが自主的に起きる “空気”があるのです。前向きで明るく、“ひとのために”という文化が醸成できているのです。

■価値観を浸透させるには繰り返し“言い続けること”が必要

――目的意識の共有、ミッションを伝えるために意識するべきことやコツはなんでしょうか。

岩田氏 人の評価をしていくうえで、“価値観への理解度”を重視することです。たとえばスターバックスで店長へ昇格できるかどうかは、売り上げや実績だけで評価するのではなく、その候補者が会社の価値観を正しく理解しているかで判定されます。おいしいコーヒーを淹れるスキルは必須ですが、それだけでは不十分。ミッションや価値観への理解が1項目でも満足できていないと昇格できない仕組みです。

――組織の中にミッションや価値観を浸透させていくにはどうしたらいいのでしょうか。

岩田氏 2つあります。1つ目は“浸透するまで、メッセージを繰り返し言い続けること”。朝礼、マネジメントレター、年頭所感、飲み会など、機会があるごとに言い続けます。「また同じことを言っている」と言われてもいいのです。

2つ目は“人事が最大のメッセージである”ということ。会社が社員に対する最大のメッセージは人事です。つまり誰を偉くするかしないかということです。人事評価は組織がどの方向を目指しているのかを示す最大のメッセージになります。人はそれだけ人事情報に敏感なのです。私は仕事などのスキルを“才”、人格が優れていることを“徳”と表現しています。若いうちは“才”の部分が大切ですが、上に行けば行くほど “徳”の部分が大切になってきます。

例えばこの“徳”と“才”について人を分類するとは、「①仕事ができ、人格も優れている」「②仕事はできるが、人格に問題がある」「③仕事はあまりできないが、人格者である」「④仕事もできず、人格にも問題がある」。

①は理想的な人材で、④は論外。一方で②のような人が特にコンサルタントに多く感じます。②のタイプの人を“人の上に立つポジション”にしてはいけません。こう言った人は社内にもクライアントにも害をなします。

■コンサルタントとして大成するには、To Be Goodを目指しなさい

――“徳”は、どのようにして身につけるのがよいでしょうか。

岩田氏  “徳”というものはその人の人間性であり、パワーポイントがうまい、エクセルが回せると言った “才”とは異なり、なかなか身につけることは難しいと思います。

では、どうすれば“徳”を身につけることができるのか? まずは簡単なことから始めれば良いと思います。例えば、ゴミを見つけたら拾う、トイレの洗面所が汚れていたらサッと掃く。人が見ていようがいまいが、そうした陰徳を積んでいくことです。加えてまず、身近な「良き人間」をお手本にするのが一番です。「学ぶ」は「まねぶ」とも言い、「まねる(真似る)」と同じ語源とされています。良き人を真似て、自分をいつも振り返る。その学びの繰り返しよって人は磨かれていくのです。

イギリスの経済学者のケインズの言葉に

「It is much more important how to be good than how to do good.」

があります。「良いことをする」のでは不十分で、「良き人間」にならなくてならないということです。
かつて、大企業の不正会計事件としてアメリカを騒然とさせた「エンロン事件」の首謀者が、ハーバードビジネススクール出身でかつ世界一のコンサルティング会社マッキンゼー出身の超エリートだったのはなんとも皮肉な話です。「良き人間」であるための「解」は、やはり、数字による解析や評価だけでは見えてきません。ビジネススクールで教える「クリティカル・シンキンング」で、「なぜ」「なぜ」を繰り返していても、「to be good」についての「解」にたどり着くことはできません。
今後ポジションが上がっていき、経営者と直接話す立場になったとき、人間性が伴っていなければ、たちまち相手に見抜かれてしまいます。特に苦労した経営者は、受付担当に自然に挨拶ができる、打ち合わせ中にお茶が供されたらお礼が言えるといった基本動作をしっかり見ています。

――落ち込んだり、迷ったりしたときは、どのような対処法を取っていますか?

岩田氏 若い時、上司に追い込まれてノイローゼになりかけたこともありました。私も今まで色々落ち込むことも多くありました。その時はひたすら中国古典など修養になる本を読み、気になる言葉を次々とノートに書き溜めていきました。今でもノートを見返すことがあるのですが、どのタイミングでその言葉に対峙するかによって、捉え方が変わってくることに気が付かされます。

また、疲れたら休む、遊び心を持つことも心がけています。当たり前のことですが、しっかり睡眠をとり、スポーツなどに打ち込むことで、心身ともにリフレッシュするようにしています。

――チームでも雰囲気が悪くなることがありますが、どのような対処法を取れば良いですか?

もし会社でもプロジェクトチームの全体の雰囲気でモチベーションが問題になったとすれば、そのチーム内でミッションの共有が不十分であるか、ゴールへ向けた意識のすり合わせが足りていないことの証拠だと思います。

組織の中間層のリーダーがやってはいけないことは「上が言ってるから」という言い訳や理由づけをしてチームメンバーにやらせること。自分が納得していないことをやらせても、だれもついてきません。もし自分も疑問に思うなら上司としっかり議論して、自分なりに納得できてはじめて、部下に伝えるべきです。部下は上司の本気度を見ています。

■育成の秘訣は“任せてみること”と“フィードバックすること”

――メンバーの育成にあたって岩田さんなりのコツはありますか?

岩田氏  どんなに高い潜在能力を持つ人でも、いきなり飛躍することはありません。まずチャンスを与え、それに応えたらさらにハードルの高いチャンスを与えと、段階的にステップアップしていく。チャンスをきちんと与えながら伸ばしていくことだと思います。

特に若手の育成については、山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」が参考になります。まさにこの言葉通りでしょう。やりかたを教え、任せてみて、うまくいけば褒める。そのPDCAのサイクルが育成には欠かせません。

人はだれでも自分のことは過大評価しがちです。評価に関して、上司は部下に対して、常に説明責任が伴います。その際、上司はファクト(事例や数値)をきちんと集めておくことが肝心です。何が良く、何が悪いのか、主観的に言うのではなく、ファクトベースで話すことです。何が良くて、何が悪かったのか、感覚的な定性的評価ではなくて、個別のファクトをきちんと収集し、本人の改善のためのフィードバックすることが育成のうえで重要です。

――すぐれた次世代リーダーを育成・輩出した歴史上の人物を挙げるとしたら、誰が思い浮かぶでしょうか?

岩田氏 教育者として真っ先に思い浮かぶのは吉田松陰(幕末の長州(山口県)藩士、思想家、教育家。高杉晋作、伊藤博文など明治維新のリーダーたちを教育した)ですね。

吉田松陰は弟子たちに自分のことを先生とは呼ばせなかった。“自分も彼らと同じ学ぶ立場”であり、同志でした。私心がなく、鎖国の時代に命懸けでアメリカへ自ら渡ろうとする実行力もありました。 “自分の背中で指導する”ことは、その人の人間性が出てきますね

――部下を育成しながら、自らも成長したい、という社員にメッセージをお願いします。

岩田氏 情報や知識が簡単に手に入る現代では、“何を言うか”よりも、“誰が言うか”が大事になってきています。同じことを発言するにしても、人間性が高く、尊敬されている人の発言には説得力があります。部下はリーダーの後ろ姿を実によく見ています。「人を治める前に自分自身を修めなさい」です。

 また能力の高いリーダーはついつい自分でやってしまって、部下に任せることが苦手です。リーダーの仕事は「実績をあげる」ことと「人を育てること」の両方であることを自覚しなくてはなりません。

部下にできるだけ任せて、その結果は事実や実例に基づいてフィードバックする。これからは年上の上司をもつ機会も増えていきます。まずは自分自身の人間性を高め、メンバー育成を実現していただければと思います。

――本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

(岩田さんの著書などはこちらから)

来月の「挑戦者たち。」では、“成長”をテーマにお届けします。自ら“楽しめる要素”を見出しながら、目標や想いを叶えようとチャレンジし、日々ステップアップしようとしているチームや若手社員をご紹介します。ご期待ください。


ありがとうございます。今後も素晴らしい日本にしていくために、リーダー育成にがんばっていきます。