page 22 Story of 永遠 




これは大人の対応として断るべきなのか

それとも有り難く受けるべきなのか… 

全く答を見つけられずに思考を巡らせている俺をよそに、どうぞとスリッパを差し出した青井先生は『用意しなきゃ』と言い残して行ってしまった。



       いい…のか?


今さらだけど一人暮らしの女性の家に男が入っていいもんなのか?

自問自答を繰り返した末、お邪魔するという気持ちの圧勝で俺はダイニングテーブルに座っていた。


なんかすげーいい匂いが漂って来ると腹が空き始めるていうおかしな状況になって来た。



エプロン姿の青井先生はガラスの箸置きを並べながら『これで良し』と小さく笑った。


後ろから見る首筋に落ちる後れ毛が心もとない。
その、首元で結んだエプロンのリボンがあやうくて思わず視線をそらしてしまう。



「冷めないうちにどうぞ…」と彼女は透明な声でそう言った。

レッスンで見せる頑なな表情とはまた違う柔らかな笑顔や、行き当たりばったりに夕飯を勧める成り行き任せな行動が面白いなと思ってしまう。



   美月「お口に合うといいんだけど…」



奏多から聞いた青井瞬との関わりの背景も俺にとっては謎だらけだった。



美月「風邪で食欲が無かったからずっとお料理していなかったんです。

そしたら反動で無性に何か作りたくなって…
そう言う事有りません?
で、作り過ぎてどうしよう…と思っていたら榊さんがタイミング良く来てくれて助かりました。
本当に良かった」



「いただきます。こういうの…」呟いた俺に彼女は瞳を上げた。



美月「こういうの?」

永遠「ああ、こういう家庭料理、しばらく食べてないのですげー嬉しいです。
この…豚の生姜焼きとかって、ロケ弁に入ってたのを食べたのが最後だったかもしれない」



味噌汁も金平牛蒡も温かい。



オレンジ色の食卓の照明が明るく照らしたこの時間はここだけゆっくりと時間が流れているようで居心地がいい。


    美月「良かったです」

         ニャー 

        ニャー …ゥニャー

         ミー…


     美月「あ…はいはい。
    あなたの分もちゃんと有るから」

    永遠「すげー!ホントに食べてる!」

    美月「ね?大好きなんです金平牛蒡」



キンピラは何か問題は有りますか?と言いたげな視線を一瞬、俺に向けてからバリバリと音を立てて金平牛蒡を食べた。



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