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75/100 誕生パーティー

文字書きさんに100のお題 063:でんせん

誕生パーティー

 今年は誕生パーティーを開催するので、実家に帰りなさいという母からの指令が一太郎に届いた。一太郎は十一人兄弟を招集するべく、東京にいる三太と五郎をマンションに呼び出して作戦会議を始めた。
「グループラインで回せばいいだろ」
 長男の一太郎がビールを飲みながらこともなげに言う。
「LINE嫌いな奴は入ってないから、それじゃ伝わらないんだよ」
 三太はビールが飲めないので、ウーロン茶を飲んでいる。
「誰がグループライン入ってないの?」
「二見と四葉、七と十一郎」
「あと八巻もダメ。既読つかない」
 五郎が顔をしかめてスマートフォンを覗き込んでいる。
「めんどくせえなあいつら。メールでいいだろ」
「四葉と八巻はメールもまともに見てないから」
 一太郎がビール臭い息を吐いてため息をつく。
「じゃ郵便だ、五郎、おまえ招待状書け」
「みんな招待状でもいいんじゃね?」
「五郎がよければ自分でやれ」
「兄ちゃんたちも協力してよ」
 三太がLINEの画面をスクロールしながら口元を歪めた。
「十也今パラグアイにいる」
「マジか。でも連絡はLINEで行けるだろ」
「こういうことは母さんが自分でやればいいんだよ」
 何でも面倒なことは俺に押しつけやがって、と一太郎がぼやく。
「あの人面倒はことはスルーするから」
「わかる」
 三太と五郎が深くうなずき合う。
「父さん今どこにいるんだろうね」
「さあ、北海道じゃね?」
 父は野鳥の写真家だが、現在川でアンモナイトの化石を掘ることにはまっている。
「父さんの予定が一番わかんねえんだけど」
「連絡がつく場所にいれば帰ってくるだろ」
「電波の届く場所にね」
「いないことが多い」
「ヤバい」
 三太と五郎の会話を黙って聞いていた一太郎が、ふと天井を見上げた。
「六月今何やってんの?」
「俺が知ってるかぎりでは切り絵アーティストと同棲していた」
 五郎が片方の口元を上げるのへ、三太が同調する。
「あいつ好きだよなそういう奴。妊娠しないのが奇跡だ」
「今お前は俺の地雷を踏んだぞ」
「あー、兄ちゃんごめん」
 一太郎は結婚して二年間子供が生まれず、現在夫婦で不妊治療に通っている。
「九重がいちばんヤバいんじゃね。今お山で修行中だろ」
「高野山ってLINE届くのか?」
「いちおう届いてるよ」
「下山してもらうか」
 あー面倒くせえ、と一太郎が両腕を上げて伸びをする。
「家のイベントが面倒くさくなかった試しがないじゃないか」
「だね」
 三太と五郎が顔を見合わせて苦笑する。
「口実がないと兄弟十一人揃うこともないから、何とかするか」
「母さんのためだしな」
「そうだね」
 話がまとまったところで一太郎の妻がテーブルにカセットコンロを設置する。
 一人暮らしの三太と五郎のために鍋パーティーを開催するというのが、東京組の恒例の儀式だった。

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