2024 『2週間で小説を書く!』実践演習 お題集

 清水吉典氏の『2週間で小説を書く!』の実践練習のお題をひとつずつやっていくノートです。
 お題が14日分(二週間分)あります。
 お題をやってみたい方はこちらを参考にしてください。
 私が2023年にやった演習がこちらです。

【実践練習第1日】リレー小説
 できれば数人で行いたいが、一人でもできなくはない。
 人数分のB4くらいの紙を用意する。一人当たり数行程度のストーリーあるいは場面を書き、それを次の人に回していく。回す回数は人数が多ければ人数分だが、少人数の場合は、十回なら十回と決めておく。最初の人にはタイトルと書き出しを作る権利がある。最初の人が立てたプランが回っていくうちにどう変化していくかは予測がつかない。逆に最後の担当者には結末を作る義務がある。全員がそれぞれ一つのタイトルの制作者になるわけだが、同時に別の作品の続きも執筆するのである。
 文章・ストーリーを付け足す場合に、基本的な姿勢は二つある。
  ①全体の流れを損なわず、それを補強し推し進めるように書く。
  ②意外な方向転換を仕掛け、流れに変化を与える。

【実践練習第2日】断片から書く
 自分の気に入った文章の断片を用意して、その断片の文章をまるごと含めるか、あるいは、そこから発想を広げて別の文章にするという課題である。

【実践練習第3日】最初の記憶を書く
 最初の記憶がどんなものだったか、いざ思い出そうとすると、けっこう難しい。たいてい記憶はぼやけている。ある断片的な部分だけのイメージであることが多い。すると文章にしてみようとしても、因果関係や話の筋としては書けなくなる。そこが、しかしこのモチーフの面白いところなのである。

【実践練習第4日】BGM物語
 三種類の音楽を選んで用意する。まったく曲の雰囲気が異なることが望ましい。早いテンポの曲、リズミカルな重々しい曲、抒情的な緩やかな曲というように、バラエティーの組み合わせが大事だ。また、ストーリーを規定してしまうような、歌詞が分かる歌ものはできるだけ避けたほうがいい。
 それらをBGMとして、ストーリーや場面を書く。たとえば三種類の音楽の場合、三つの場面を分割して書いてもよいし、ひとつながりの物語になるように書いてもよい。
 書く場合に心がけてほしいのは、できるだけ目に見えるような描写を入れてほしいということである。音楽が耳に響いたとき、頭の中に何ということもなく反射的に場面や情景が浮かぶことがある。その雰囲気をできるだけ詳しく、目に見えるように文章にしていくことである。そして、むりやりストーリーにしようとせずに、断片的な情景だけの文章になってもかまわないというつもりで書いてほしい。

【実践練習第5日】人称を変える
 まず一人称の「私」を用いて普通に文章を書いてみる。書く内容としては、読んだ本の感想のような文章は避ける。生活の習慣や仕事の経験のような、自分が関わった出来事や行動を中心とした文章(私は……した)のほうがいい。もっと効果が高いのは、自分の悩みや不安や歓びを語った文章(私は……と思う)だ。すでに書かれた文章があるなら、それを材料に用いてもいい。

【実践練習第6日】一瞬を書く
短い時間に起こった出来事を長く、あるいは静止しているように書く作業である。
 事故の瞬間や、晴れがましい栄誉の瞬間のような、型にはまったドラマチックな文章になりやすい出来事を避けて、さりげない、しかし印象的な一瞬を経験の中から選ぼう。
 その「一瞬」を書くためには、そこに至るまでの流れを書くことが大事である。それをどう書くか。じつは肝心の「一瞬」よりも、そこへ誘導する文章のほうが技術が必要なのである。
 いったん出来上がったら、読み返して推敲してみる。あまりに劇的になりすぎていたら、大げさな表現を削る。

【実践練習第7日】人物スケッチ
 実際にスケッチブックやメモ帖を持ち歩いて試してもよいが、外で見かけた人物を文章でスケッチしてみる課題である。髪型や服装、持ち物、靴、表情、仕草などから、どういう生活をしていて、どんな性格の人物か、いまどこへ何をしに行くところか、あるいはどこで何をしてきたところかを、できるだけくわしく想像してみる。 こういう場合、自分に近い世代の人間にはわりに想像が働くが、日ごろ話をしない種類の人間には、テレビドラマ等で出回っているようなステレオタイプ(紋切り型)の想像をつい当てはめてしまいやすい。

【実践練習第8日】コップを眺める
 できるだけ特徴のない平凡なガラスのコップを用意する。無印良品や百円ショップで売っているような円筒形の無色透明なコップである。そこに八分目くらいまで水を入れて目の前に置き、観察する。そして気付いたことを文章に書くのである。
 注意点としては、必ず実際に観察していて発見したことだけを書くことだ。これがなかなかむずかしい。たとえば「コップにまつわる思い出」などを勝手に書いてはいけない。「コップの詩」なんてキザな詩みたいな文がひとりでに浮かんできても却下する。水面のふちがわずかに盛り上がっているとか、細かな泡がコップの内側に付いているとか、ガラスの向こう側の景色が左右反対で横に広がっているとか、水と透明なガラスのあいだでどういうことが起こっているかを、どこまでも自分の目で発見するのだ。小説を書く練習だという意識も持たないほうがよい。これは「見る」ことの訓練である。

【実践練習第9日】なりすまし文体
 小説家の重要な特技の一つは、自分ではないまったく別人の意識になりきって、しかもその人物の言葉づかいになりきって書くことができるということだ。
 実践第7日で行った「人物スケッチ」に書きとめた人物になりすまして、その人の一日を書いてみよう。どういうことに関心があり、どんな言葉づかいをしているか、どういう考え方をしているかを想像し、一人称で書く。架空の形態模写をするのだ。
むしろ反感を抱いているような、自分から遠い人物を選ぼう。

【実践練習第10日】指先の物語
 自分の体験をエッセイ風に素材にしてもいいし、創作でもいいが、必ず「指」にまつわるエピソードとしてまとめる課題である。人物の心理よりも指先が体験したことを中心に書く。つまり主人公は「指」なのである。
 触覚はふだんなかなか文章にする機会がない。しかしじつはどんな感覚にもまして生々しい感覚なのである。

【実践練習第11日】夢を書く
 できれば実際に見た夢を思い出して書いてほしいが、なかなかこれが、できそうでできない。
早起きを厭わず、目覚めて夢の中にまだ半分いるような状態を温存した上で、ゆっくり夢を反芻して文章に書く時間を楽しむ余裕を持ってもらいたい。

【実践練習第12日】職場を書く
「あなたの職場はどんなところですか?」「そこであなたは毎日どんなことをしていますか?」という質問に、正確に答える文章を書く課題である。職業を持っている人は、自分の職場がどういうところで、どんな人間がいて、自分がそこで何をしているかを、まったく知らない相手にも分かるように書いてほしい。

【実践練習第13日】三題噺
 落語家が寄席の客からいくつかお題を出してもらって、その場で即興の噺を作る。それと同じことを小説でやってみるのである。三つの題は、簡単につながりが思いつかないような、できるだけ取り合わせがバラバラな言葉を選ぶことである。

【実践練習最終日】何事も起こらない普通の日
 これは「日常」を書く課題である。平凡な、特別なこともなく時間が過ぎていく日を文章で書く。つまらないことのように思えるかもしれない。しかし、これが最も難度の高い課題である。これが生き生きと書ける人は、どんな小説でも書けるはずだ。

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