見出し画像

ある秋口の一日

いつもは午前中に走る国道9号線をまだ夏を残す午後に走っていた。
朝仕事を片付けて通勤客が減るだろう9時過ぎに家を出たのであるが、なんだか駅はいつもの様相ではなかった。阪急京都線が人身事故で全線不通であるという。JRとは違い、なかなか止まらない阪急である。仕方なくJR新大阪駅からJRの京都線に乗ろうとしたがなんとこちらも人身事故を起こしたという。ダブルの京都線不通は初めての経験だった。仕方なく新大阪駅の本屋で立ち読みをしていると「怪と幽」という雑誌を見つけそこには荒俣宏、京極夏彦、夢野久作、諸星大二郎等の名が並んでおり「これは買うしかないだろう。」と空いたレジでぶ厚い雑誌にカバーをかけてもらいカバンに詰め込んだ。
阪急線の開通の一報が入り、地下鉄で一駅西中島南方まで戻り、そこから阪急南方駅まで行って京都線に乗り換えた。そして洛西口駅で電動アシスト付き自転車を借りて久しぶりにNPO京都発・竹・流域環境ネットの事務所に向かった。

暑さは残るがとんでもない暑さではない。うっすら掻く汗も気持ちの悪いものではなかった。遠くに見える西山にはもう熟れた陽炎はかかることはなく秋の静かな訪れを感じることができた。まだ汚い茶色の秋茜たちは刈り取られた田の宙を泳ぎ、まだ蕾の曼珠沙華は大きなマッチ棒のようであった。自ら口を開くこと無くジッとそこにいるだけで彼らは私に季節の移ろいを伝えてくれた。秋はもうここまで来ているよ、と教えてくれた。

事務所で理事長と先の話を少しして、生命保険会社にノベルティグッズとして買ってもらう竹炭の消臭剤の見積書を作り帰った。帰りに事務所の家主のおばちゃんが新米を持たせてくれた。カバンに入るだけ詰め込まれた米と新大阪駅で買った本とがあまりに重く、珍しく途中下車せずに八尾まで帰った。それでも駅前の立ち飲み屋でビール1本だけ飲んで自宅に戻った。
なんでもない平日の休みが終わった。夜、窓を開け放して寝ているとなんだか夜空の会話が聞こえてくるようで心地の良い空気が流れ込んできた。やはり秋はやって来ている。そう思いながら久しぶりに深い眠りに落ちることができた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?