見出し画像

夢の話

私はあまり夢を見ない。正確に言えば私は夢を憶えていないのである。そんな私が記憶している昨晩見た夢はかなり不思議な夢であった。

夢の中で私はベッドで寝ていた。でも、寝ながらそこが私の部屋でも家でもないと分かっていた。目を開けてはいけない、目を閉じたままその時間をやり過ごさなければならないとも分かっていた。
普段であればそのまま、まどろみの中に再び落ちていくのだが、目は冴えてくるばかりであった。眼を開けてはならないとなぜ思ったのかそれは分からない。分かるのはその時に恐怖心も罪悪感も何も無いことだけであった。

そして私はそっと目を開けて自分の状況を客観的に観察していた。破壊された天井の無い鉄筋コンクリート造のマンションの部屋の一部とそこに鎮座するベッドと私は宙を高速で飛んでいた。「なんだ、こんなことか」そう思ってまた目を瞑って頬をかすっていく高速の空気を感じて私は再び眠りについていた。
高速で宙を移動するマンションの一部がどこに向かって飛んでいるのか、いつまで飛んでいるのか分からない。でも夕陽に向かって飛んでいるのは間違いなかった。いつまでも赤い夕陽に向かって飛んでいた。

前日にウクライナのドローンがモスクワ市内のビルを攻撃したとかいうニュースを見たからかも知れない。
日本製の部品の使われているドローンがそんなところで活躍しているということは、今では朝あくびとともに歯磨きをしながら横目で他人事としてニュースを見るようになってしまった私の前で、実は世界戦争をやっているんだと気付かせられた自分がいるからかも知れない。
また広島の原爆の日がやって来たのに原発稼働決定のニュースも他人事に思える自分がいるかも知れない。
すべては他人事であって、自身の私利私欲だけを思う自分がいるからかも知れない。

私を含めた多くの人間はこの世に必要ないと思っていた時代もあった。
しかし、そうではない、必要のない人間などこの世の中に一人もおらず皆はどこかでつながって生きているんだと思えた時がやって来た。
でも、また今はそうは思えない。個はいつまでも個なのである。喜びも楽しみも満足もすべて個であり理解し合えることは無いのである。
夢の中の私はたぶん今も飛んでいる。どこまで飛んでいくのであろう。いつまで飛んでいるのであろう。先は分かっているが口には出してはいけないことのように思う。沈むことの無い夕陽に向かって今も夢の中で飛んでいるように思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?