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ウインナ・コーヒーのおもいで

誰もが一度は経験しているのではないだろうか。
喫茶店のメニューを目にしてそこで止まってしまった事が。

豊橋の喫茶店のメニューではウインナーコーヒーと明記されていた。
それでは誰もが一度は勘違いするだろうと思う。
値段が高いから一度も注文したことはなかった。
『ウィーン風』コーヒーと知ったのはずっと後の事であった。

社会人初めての赴任地は京都であった。
ゼネコンの出張所の所長は私と同期入社の男の父親であった。
仕事の出来る怖い所長で社内に名が通っていたが、私には優しい親父のような存在であった。

行く先も告げられることなく社用車に乗せられることがよくあった。
時々近所のきれいなママのいる洒落た喫茶店に連れて行ってもらった。
運転手さんと並んで所長の前に座ってコーヒーをご馳走になった。
所長の息抜きの時間だったのだろう。

所長は新聞を読み、タバコをふかし、ママと世間話をしていた。
その時所長はいつもウィンナ・コーヒーを注文した。
私はいつも遠慮してブレンドを頼んでいたが、一度だけ所長に断って同じウィンナ・コーヒーをお願いした。
コーヒーに砂糖を入れない私には、ほろ苦いコーヒーと甘いクリームの組み合わせが新鮮で違う世界の飲み物のように感じた。
生まれて初めてのウィンナ・コーヒーだった。
所長はいつもお代わりを頼み、クリームまでお代わりをしていた。
所長は糖尿病なのにいいのかなといつも気になっていた。

懐かしい、ゼネコン第一期京都時代の思い出である。
24時間、365日働く時代の所長だった。
今では考えられないが私たちも4時間、5時間の残業が当たり前の時代だった。

だから、そんな何もしない、考えない時間が尚更必要だったのだと思う。
リセットし、頭の中の整理と切り替えに必要な時間であり、場所だったのだろう。
そして所長は甘い甘いウィンナ・コーヒーときれいなママで脳と心に栄養補給をしていたのだろう。
そんな、心を許せて無為な時間を過ごすことの出来る喫茶店は減ってしまった。

今の若いサラリーマンはどうやってリセットし、脳と心に栄養補給をしているのだろう。

それがスマートホンの中であったりするならば由々しき問題であるような気がする。

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