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ボラの引っ掛け釣り

わが家の愛猫ブウニャンが布団にもぐる時間が長くなってきた。この風景を目にすると冬が来たなと思う。
大寒にはまだ日があるが、ここ大阪もやっと朝晩は気持ちの引き締まる冷たさとなってきている。

この寒さがもっと募ってくると子どもの頃やったボラの引っ掛け釣りを思い出す。ボラという魚を知らない人が多いかも知れない。白身の泥臭い魚だ。卵の加工品のカラスミの方が有名だろう。
出世魚でオボコ、イナ、ボラ、トドと名前を変えながら歳を取る。
オボコい子供のボラはイナせな青年に育ちトドの詰まりは胃に収まる
と魚市場で働いていた時に誰かに教えてもらった。ボラのこの異名がそれぞれの語源になっているという。

前日の夕に約束して寒い朝、豊川(とよがわ)にかかる豊橋(とよばし)まで自転車を走らせた。橋の欄干に肘を乗せてそこから大きな三又の釣針を下ろす。赤と黄色のゴムのヒラヒラがくっついている。冬のボラは脂がのる、その脂が目にものって一時的によく見えなくなり赤と黄色のヒラヒラに飛びつくのだ。欄干から水面まで20mほどあったのだろうか。手に持つのはテグスが少しだけ残った糸巻きだけ、それを上下に動かしてボラを誘き寄せて引っ掛けるのだ。普段の釣りと違って持ち歩く道具が少ないのがいつも新鮮な感じがした。魚を持って帰るのが目的ではなかった。釣れても釣れなくてもよかったのだ。いつもなら絶対起きることのない時間に自転車を走らせて橋の上で寒さに耐えながら悪友と共有する時間が嬉しかった。欄干には誰かが付けた傷があった。私たちの想像通りそこで糸を垂れるとボラが食いついてきた。

大阪から新幹線で豊橋駅に到着する前に一級河川の豊川(とよがわ)を横切る。その時これからの時期、そんなことを思い出す。吉田城の横でボートを借りて子ども四人で釣りをしていて、真冬の豊川に落ちたこともあった。何もかもが半世紀も前のことである。その頃と何も変わらない自分がいるようにも思う。でも間違いなく時間は過ぎている。あの頃とは比べようもなく多くの記憶が私の頭なのか心なのか、どこかにある引き出しにしまわれている。その引き出しの引かれるタイミングは様々である。天候や気温、陽の光、いろんなことが五感と合わさり引き出しを引くようである。いつも不思議に思っている。

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