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ソニータイマー

母がグループホームで使っていたラジオが作動しなくなってしまった。
電池を交換したら電源が入らなくなってしまった。
ネットでラジオを聞くこともあるが、ラジオが音源である音楽やニュースが好きだ。

グループホームで母が持っていたラジオは八年も前に家にあったのを、私が運び込んだ。
認知症になる前の母のために父が購入したモノであった。
母は眠れぬ夜をNHK『ラジオ深夜便』を聴いて過ごしていた。

父は国家資格の一番難しい資格を持つ電気技師だった。
いろんなこだわりや経験があったのだろう。
家電製品はパナかソニーだつた。
だからか、私もパナかソニーにこだわった。
ゼネコン時代にはたまたまではあるが、松下電器の担当営業マンだった。
新しいモノ好きを喜ばせるソニーに、安定のパナソニックであった。
ソニーが新しい製品を開発して、パナが真似して大衆向けの廉価版を作るなんてことを言われていた時代もあったように思う。

ソニーの個性的な製品の一つであるウォークマンは1979年、私が高校三年の時に登場した。
ニホンザルが耳にイヤホンをし、両手でウォークマンを持つCMが記憶に残っている方が多いと思うが、これはだいぶ後の1987年のことである。
今は無くなりつつあるカセットテープの再生機である。
こぞって皆、これを持った。
私もカッコいいと思った。

1984年に社会人となり、初給料で買った再生機は、新宿の家電量販店で悩んだ末、ナショナル製品だった。
ソニーよりずっと安かったのである。
それからソニーはMDの再生機や、今目にすることもなくなってきた小型メモリーカードであるメモリースティック、ビデオではベータを世に送り出した。

母の使っていたラジオは高齢者向けでスイッチ、アンテナから照明など高齢者には複雑すぎるくらい高齢者対応のアイデアが満載であった。
そのラジオが、うんともすんとも言わない、まったく作動しなくなってしまった。
これが世にいう『ソニータイマー』なのであろうか。
保証期間が過ぎた途端に製品の寿命が尽きる都市伝説をそう言うが、とっくに保証期間は過ぎていると思う。
理由は分からないが、なんとも残念なことである。

ヘッダーの写真がそのラジオ、そしてその前にあるのは、かれこれ30年以上私の机の上にあるクリーナーである。
手で動かして消しゴムのカスをきれいに集める優秀な一台である。
そして、この消しカスクリーニングカーをソニーの設計者が開発したとずいぶん以前にどこかのコラムで目にした気がするのだが、ネットで探してもわからない。
ソニータイマーなるものを設計できる設計者のいる会社ならば昼休みにでも気分転換に設計して楽しみ、製品化したのかも知れないなんて勝手に想像していた。
私の机の上をどのくらいの距離を走ったか分からないが、このクリーナーが潰れるよりも先に私の寿命が尽きるであろうと思えるほどしっかりした愛らしい製品である。

涼しくなったこの秋の夜長を過ごすのにはこんな考えことがいい。
文具は私の大人のおもちゃなのである。

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