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あなたの知らない自動販売機の世界

日本経済新聞電子版をだいたい毎朝目にしている。
営業マンをしていた頃の癖である。
ザッと目にしておかないと落ち着かないのである。

『くらしの数字考』ってコラムで同じ飲料がなぜ販売機によって値段が違うのかという誰が考えても当たり前の内容の記事が目についた。

私がゼネコンに入社した1985年、まだ昭和のこの頃は海洋汚染の原因の一つともされるペットボトルはまだ登場せず、缶の飲料が主流であった。
当時の建設現場の事務所には必ず飲料の自動販売機があった。
職人さんたちに缶コーヒーや缶ジュースは欠かせないものなのである。

10時の休憩、12時の昼飯の後、15時の休憩、17時に作業終了して帰りの車で飲む缶コーヒーに缶ジュース、一日に1人最低でも4,5本は自販機から買うのである。
甘い缶コーヒーやシュワシュワのジュースは職人さんたちにとって、タバコと共に不可欠なものなのであった。
私がいた現場は山中や田舎ばかりで、近くにコンビニもスーパーマーケットも無いからなおさらである。
そしてこの自動販売機は事務所を建てると必ず地元協力と称してやって来る怖いお兄さんたちの『しのぎの手段』の一つでもあり、断ることのできないものであったのだ。

土木現場と違い、建築現場には複数の職種の職人さんが来る。
竣工間近な繁忙期になれば私が担当させられていた小さな現場でも100人近い職人さんが現場で仕事をすることがあった。
建設工事期間を通して平均して職人さんの人数を50人/1日としておこう。
この販売機を置くと1本10円の電気代と称する自販機置き代が支払われた。
4本/1日の缶コーヒー・ジュース × 10円 × 50人 × 25日 = 50,000円/月となる。

塵も積もれば山となる、、である。
ひと月50,000円の電気代は本来は会社へ戻入すべきものである。
しかしながら今と違うまだおおらかな時代、会社からなんの催促もないのをよいことに勝手に使わせてもらった。

現場の慰労会に使うことが多かった。
職長会という現場の職人さんたちの自治組織があって、現場の掃除や安全管理を自主的にやることになっており、そこで毎月幾ばくかの積立てをしていた。
それと併せてふた月に一度くらい土曜の午後に焼肉会をしていた。
帰りの運転手を事前に決めて、キチンとしたルールのある健全な焼肉パーティーであった。

いい肉をどっさり買い、ドラム缶を半分の切った焼き台の炭火でドンドン焼いてドンドン食った。
そしてたらふく飲んだ。
職人さん達が毎日飲んだ缶コーヒーや缶ジュースはそうして職人さんたちのお腹に還元されたのである。

でも、これが三桁の請負金額のある現場ならば職人さんの数も多く、毎月新卒の初任給くらいの返りがあったはずである。
すべてが健全に消費されていたかは担当者でなければわからない。

こればかりは私の想像の範疇を越える『あなたの知らない自動販売機の世界』なのである。




◎これは何となく嬉しかったので、この場を使わせて頂き、報告いたします
 みなさん、ありがとうございました




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