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夏来たりなば
なんてことであろう。
気が付けば夏がやって来るなんてすっかり忘れていた。
田植えは終わり、植えられたばかりの稲たちはまだ慣れぬ田の水鏡に恥ずかしそうに自身の姿を投影し、その間を優しい夏風が吹き抜ける。
この風も青嵐と呼んでやれぬものか。
兜エビがその小さな脚をもげるほどに動かし泳いでいる。
何を思いそこにいるのか、問うても返事の返る由もなし。
そう言えばこの数年豊年エビを見ることが無い。
豊作とは縁遠い作業が毎年続けられているのだろうか。
時間は止まらない。
季節は巡りそれに合わせて生物の営みは繰り返される。
誰一人逆らう者はおらず、不平さえ言わない。
人間だけである。
文句を口にして、抗い、それに向けての努力をする。
そしてそれは讃美されて来た。
それを科学技術の進歩というらしい。
多くの事に気付き、多くの事が腑に落ちるころには老いて身体は動かなくなる。
だからちょうどいいのかも知れない。
気付くだけでいい、腑に落ちるだけでいいのである。
それ以上やっちゃあいけないことがあることも知らねばならない。
バカと思えるように繰り返さなけりゃならないこともあるのが世の中なんだと気付いて本当に世の中を理解するのである。
夏来たりなば、また夏はやって来るのである。
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