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伝言板の恋


今の若い世代は伝言板って知ってるんだろうか?

もう40年近くも前の学生時代、携帯電話さえ、個人で持ち歩くことの無い時代によく利用させてもらった。
駅の改札口辺りに置かれた黒板である。
罫線が引かれ、伝言を書いた時間、伝えたい内容を書く欄があった。
それを駅員さんが一定時間で消す、そんなどこの駅にでもあるサービスであった。

遅れて来る仲間に飲み屋の名前を残したり、男女間の伝達手段となったりと
当時の我々にとってはこの上なく重宝した連絡手段であった。
私は推理小説や恋愛小説を読むように、駅での待ち合わせは必ず伝言板の前に立って眺めるのが好きであった。

『居酒屋むらさきで待つ   HM』などという伝言が私たちには多かったのだが、『ありがとう』とか『ごめん』なんてのもあったと思う。
特にのぞき見趣味があるわけではないが他人の伝言にはほのぼのするものもあったように思う。

何もかもが今よりも大らかだったように思う。
誰もがスマートホンを持ち、24時間つながることが可能な世の中になった。
ある意味、その頃には想像もつかなかった便利な世の中になった。
そして便利になった分、失ってしまったものも多いように思う。

夕方の待ち合わせで遅れて来る仲間を気遣い伝言板に書き込む時間なんてもうこの世には無い。

待ち人が現れずにたまたまそこに居合わせた二人に恋愛が始まった、なんて話を聞くこともあった。そんな夢のようなロマンスはもう無い。

アナログの世界だからこそあったこのロマンス、今のインターネットの世界で恋愛なんて成立するのだろうか、顔を見ることも無い相手を信じることなどあり得るのだろうか。

阿倍野での合気道の稽古の帰り、コーヒーを飲みながらそんなことを考え、歳をとったなぁ、とまたさらに考えた。

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