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それでも春はやって来る

えねえ、菜の花って見たことある?」
「あるさ。毎年愛知の実家にこの時期帰ると佐奈川の土手が菜の花で埋ってるよ。」
冬の終わりかけから春に向かい咲き続ける菜の花はいつも不思議である。
月の明るい夜に照らし出される黄色は私を夢の世界に誘った。
酒の酔いか花での酔いか、はたまたそれは夢か現か幻の世界にいるのか、そのまま入水する人間の気持ちが分からないでもないような気がした。


れでもう終わりだね。」でも、それはスタートの挨拶だった。
スミレの新生活はそこから始まった。
肌寒い朝、二人は別々の扉を開けた。
春に開けたからよかったのである。春には負を正に変える魔力がある。
もう一度やってみよう、やり直してみようと思えるのもそんな春の魔力なのである。


クラサク」こんな古風の電報文章を今の若い人たちは知らないだろう。
インターネットのこの世の中で配達という人力の加わった古風な電報が残っているのが不思議である。
でも、いつまでも残っていて欲しい。
「イキテルカ、デンワヨコセ」酔っ払って下宿に帰ると母から電報の届いていた学生時代が懐かしい。


い週、火曜日な、東野田公園にブルーシート敷いておけ。」
「はい、わかりました!」と二つ返事で新社会人での花見は挙行された。
まだ寒い夜だった。
初めて言葉を交わす先輩方に気を遣いながら酒を注ぎまわった花見だった。
今はもう無い、会社の花見らしい花見だった。
片付けが終わってから缶ビール片手に一人公園に戻った。
外灯の明かりで白く見える桜がきれいだった。
終わりかけた桜は新しい春を予感させ、社会人生活への期待に私の胸を膨らませてくれた。


かだなぁ、そんなこと考えていたんだ。」
言葉少ない太郎の気持ちが分からず花子はずっと考えていた。
私たちの春は終わったんだと一人ずっと考えていた。
でも違った、雪は解け、春は向かって来ていたのだ。
冬眠からやっと目覚めたクマの太郎は優しくクマの花子の頬にキスをした。


不思議ですね。何があっても季節は巡りやって来ます。
春がスタートの日本でよかったと、私はいつも思います。
始めるのは春、やり直すのも春。
気持ちを一新させてくれる、そんな力を春は持ってますよね。
さあ、みなさんこれからですよ!

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