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『コンセント考』

大阪府八尾市というところに住んでいる。
縁もゆかりもたいして無かった場所に移り住んで10年近くなる。

当時、母の認知症は悪化の一路を辿っており、母の最期までを考えての介護に頭を悩ませていた。

八尾でその頃から手広く高齢者介護事業を手掛ける女性経営者に「あんたのお母さんならば、看取りまでするから八尾に引越して来なさい」と言われて頭ばかりか心まで病みそうになっていた私は二つ返事で転居を決行したのである。
奈良の家を売り、八尾に家を建てた。
母は結局八尾に移り住むこと無く愛知県豊川市のグループホームで生涯を終えた。

引越しをする必要は無かったのである。
しかし、そんなのが人生である。
その時はそれが最善の策だと思っていた。

そして、その八尾の家に7年間住んだ2年前、サラリーマン時代から付き合いのある取引先の男に「宮島さん、合気道の道場用に八尾の建物一軒買わないか」と話を持ちかけられた。
住宅ではなく、もと販売店舗だった物件であった。
不要の不動産の処分をやっていて年度内の予算は達成したからと、破格での話であった。

ただ、築50年の木造物件である。
駅から近いので一度見てみようと自転車を走らせると記憶が甦った。
私が相談を受けて耐震改修の設計をさせた物件だった。
鉄骨まで入れて構造補強したのを思い出した。

「あ、あれならば、、」と購入を決意して道場ではなく自宅用に改修し、引越しして今に至っている。
徒歩5分位以内に駅、市民病院、スーパー、図書館のある便利な場所である。

本題はこの改修の話である。
なるべく費用がかさまぬように工務店と相談し、工事費のかからない希望を受けてもらった。

私は社会人となり一人で生活するようになってから、ずっとコンセントの位置の高さが気になっていた。
今回は老後の生活を考えて床から少し高めの40センチでだいたいを統一してみた。
今でこそ新しいマンションや戸建てならば冷蔵庫と洗濯機のコンセントくらいは高くに位置するが、以前の住宅はほとんどのコンセントは床上20センチくらいだったように思う。
重力に従いコンセントから伸びるコードは床に転がすことになるから20センチくらいの高さが妥当という事になるのであろう。

しかし、歳を取ってから掃除機一つを使うにしても、腰を曲げてのコンセントの抜き差しは容易ではないだろう。
気の利いた住宅メーカーならばそんなこともオプションの内に入ったりするようだが、まだあまり一般的ではないようであった。
電気工事業者には怪訝な顔をされた。

でも、快適に生活をしている。
私の部屋のコンセントは机に向かった時にちょうど目の高さ辺りに来るよう1メートルほどの高さにも設けた。
それも便利である。

日本人の生活は畳から床に変わった。
今住む家に畳は無い。
床に座り込むことは無く、床に横になることも無く、生活様式が変わったから、付随するいろんなことが変わることは然りであろう。

これまでずいぶん引越しをした。
仕事に伴う必要に迫られての事ではあるが、引越しには余分な金がかかる。
生まれた家にずっと住み続ける奴を羨ましく思う事もあるが、引越しには良いこともある。
気分が変わる事もその一つである。
この note で文章の修行をしてみようと思い立ったのもそんな気持ちの変化だった。

実はこの家が終の棲家となる気がしていない。
歳を取っての移動は大変であろうが、そこでまた生まれ来るものがあるのであらば、そんな機会を迎えてみるのもいいものだと思っている。

ブウニャンには終の棲家となりそうです

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