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今日は雨

 日記は付けたことはないが、なぜか他の人が書いた日記を読んだりするのは嫌いではない。他人の私事を知るという興味ではなく、淡々とその日の出来事を書いている、そっけなさというか、記述だけというか、事務連絡というか、そんな無表情な抒情など無関心なそのことが、かえって好ましく思われる。なぜそうなのかは、自身でもわからない。特に何月何日晴れとか雨とか、ときどき曇りなどと書かれたりしているところなどは結構お気に入りの箇所である。それこそどうしてかは分からないし詮索する気もない。
 そんなことで、雪、風、雨、真夏、太陽、海・・・そんな言葉だけで、それぞれがそれぞれに思い起こされ、私家版歳時記なのかもしれない。

今日は雨
今日は、朝から小雨が降っている
地下鉄を下り、外に出る
持っていた、書物を雨に濡れないように
コートの裏に抱えこんで
自分は、小雨に濡れて
小走りに、事務所に向かう

雨が空から降れば 別役実
雨が空から降れば
オモイデは地面にしみこむ
雨がシトシト降れば
オモイデはシトシトにじむ
黒いコーモリ傘を指して 街を歩けば
あの街は雨の中
この街も雨の中
電信柱もポストも
フルサトも雨の中
しょうがない 雨の日にはしょうがない
公園のベンチでひとり おさかなをつれば
おさかなもまた 雨の中
しょうがない 雨の日にはしょうがない
しょうがない 雨の日にはしょうがない
しょうがない 雨の日にはしょうがない

フジ子・ヘミング ピアニスト
大した家じゃないと思っていたけど、今考えたら私が住んだ中で一番素晴らしい家だったわね。古い木造で、夏なんか風がスゥーッと通って障子がコトコト鳴って。雨がパチパチ瓦に当たる音がしたりさ。ああいうのはやっぱり日本の家しかないですよ。

塚村真美
下駄に音があるわけではない。地面だけでは音は出ない。下駄と地面が出遭ってはじめて音が出る。

棟方志功
水中の石像 雨に濡るるを怖れず。

「長雨・眺め」
傘は雨を知る道具
雨を見ているようで言葉を見ている
雨に濡れてはいない

言葉は、なにを知る道具


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