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壁紙を決めるときには

 建築に興味をもちはじめた若い方から、壁紙を決めるときには、どのようにして決めるのですか、と尋ねられた。
 基本的には床の素材や色を決定してから、それを基準にして壁紙の素材や色を選んでいきますと、お答えした。一瞬不意な答えのようで、おそらく彼は、個別に床材や壁材を嗜好によって決めていくものと思っていたようである。
 設計を始めた若いころは、平面図を描き、それと同時に天井伏図を描くことをしていました。床が天井を規定する、床と天井が同時に立ち上がった瞬間、空間が生成する、その仕組みが図面を描く順番であったのでしょう。いまでは真っ白な色で壁も天井も見境がなくなり、無造作に扱われているので天井伏図を描くことはほとんどなくなりましたが、すべての建築の部位や素材は、お互いに関係し合い建築となっています。
 
 日本の建築について学んだのは、二十六歳頃、勤めていた事務所の所長河合先生からである。いつものように五時ごろになると、一帖ほどの製図版の上(当時はパソコンではなく平行定規で図面を描いていた)にウイスキーと氷・水そして御つまみを準備するのが日課であり、所員も時々ご相伴にあずかり雑談などした。いつもは夕方になると建築家や構造家、なじみのゼネコンの人たちなどが集まるのだが、その日は所長と山本君と私の三人だけで一杯頂きながら雑談していた。そのうち河合先生が(何がきっかけであったか忘れてしまった)、日本の建築の根幹みたいなについて語り出し、それを聞きながら、日頃のルーティーンである平面図と天井伏図をほとんど同時に描く意味(床の素材と天井の素材、床の段差と天井の段差、その関係性など)が理解できたような気がした。それから二十五年ほどして、ようやく建築家隈研吾の「反オブジェクト」で明確に日本の建築につて書かれてある書籍に出会った。

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