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「天使のいない12月」プレイ後記(ネタバレ有)

初めまして、Shock_Panと申します。

タイトル通り「天使のいない12月」というゲームをプレイした感想です。
こちらの作品は性的描写を含む成年向けノベルゲームですのでご注意ください。

「天使のいない12月」とは

2003年にLeafより発売されたアダルトゲーム。

願ったのは束の間の安らぎ
叶ったのは永遠という贖罪

人間関係は軽く薄く小さくがモットーであり、 なにごとにもいい加減で投げ遣りな生活を送っている主人公。

特にやかましい妹がいるせいもあって、女は面倒だと思っている。

 そんな主人公と違い、友人は女の子との恋愛に時間を費やし、 肉体関係になることに至上の価値を求めているので、 主人公に恋愛を勧めるのだが、まるで聞く耳を持たない。

 ところが、ある女の子とのささいな言い争いから、 なりゆきと興味本位でその場限りの関係を持ってしまう。

天使のいない12月 製品ページ - Leaf/AQUAPLUS

攻略順

僕の攻略順は以下の通りでした。
触れた順番によって各ルートの見え方も違ってくるかな、と思うので参考までに。

  1. 真帆: 後輩、悪友(功)の彼女、妹の友達

  2. しのぶ: 同じクラス、クラス委員、透子と幼馴染

  3. 明日菜: バイト先の先輩、割と年上

  4. 雪緒: 学校とバイト先が同じ

  5. 透子: 同じクラス、しのぶと幼馴染

感想(ネタバレあり)

全体を通して

主人公・時紀がドライでダウナーなキャラぶっていながらも、嘘でしかないから愛を囁かないという歪な誠実さや、ヒロインたちや妹、捨て犬に見せる優しさ(甘さ)は如何にも思春期の人間といった感じで、苛立ちつつも憎めませんです。
自分が時紀と同じくらいの年頃だった時のことを振り返ってみると、彼ほど極端ではないにせよ中二病を拗らせ厭世的にものごとを見ていた事実が襲い掛かってきました。「どうにかまともになって欲しい」という祈りにも似た気持ちを抱き、目が離せなくなっていました。彼がどうなろうと僕の過去・現在が変わるわけではないのに不思議ですね。

続けて各ルートに触れていきますが、透子に入れ込み過ぎたプレイヤーの感想です。また、一気にプレイした勢いで内容を別のルートと混同していたり仔細が間違っているかもしれません。

真帆ルート

恋愛に対して潔癖とでもいうのでしょうか、真帆は彼女の恋人にして時紀の悪友の功が好きではあるものの彼の下心には難色を示していました。
そこで時紀に功との付き合い方を相談し、そのまま時紀に気持ちが傾いていってしまう、というのがこのルートの概略です。
時紀はどのルートでも透子と身体だけの関係を築いてしまうのですが、それを逆説的に「好きな気持ちに肉体関係は無相関である」→「好きな気持ちに肉体関係は不要」という真帆の考えを肯定するものとして受け取られ、話が進んでしまうのがなかなかに皮肉でした。
飛躍しすぎにも感じましたが、それだけ真帆が自分の考えが正しいのか迷っていたということなのではないかと思うと腑に落ちました。
功はやることはやりたいけれど、それだけではなく真帆のことを大切に想っていた。それに対して真帆は……というのがしんどさを引き立てていました。
身体の関係も欲しかった功、心だけで良いと言いながら最終的に浮気に至ってしまった真帆。どちらが正しかったのか、正しさなんてものがあったのか、という問いを投げ掛けて終わったのが印象的でした。
最初に着手したルートでこの問い掛けを受けたのは後続の読み方に大きな影響を与えたように思います。

しのぶルート

時紀が透子に対し、好意ではないけれど何か特別な感情を透子に抱き始めていたところで、しのぶの弱さにも触れてしまい、しのぶを放っておくことができずそのまましのぶと関係を持ってしまうお話でした。
幼馴染のしのぶしか友人のいない透子。しかし、そのしのぶに守られていることによって劣等感を募らせていた透子。身体だけとはいえ他人(時紀)に求められたのが嬉しかった透子。
そんな透子が時紀としのぶが関係を持っていることを知ったときの心境を想うと胃が潰れます。
透子の望みが「時紀に必要とされること」ではなく、「たとえそれが身体だけの関係であったとしても、時紀の特別な存在であること」に変化していたのが強調されていたルートで、しのぶルートというよりはプレ透子ルートといった印象でした。しのぶは舞台装置感が強かったです。
もし時紀がしのぶのことを気に掛けつつも身体を重ねるのは透子だけにしていたとしたらまた違った結末を迎えたと思いますが、それができなかったというのがこのルートの核でしょう。

明日菜ルート

明日菜は透子との関係に悩む時紀の相談に乗ってくれる頼れるお姉さんとして振る舞います。しかし、その目的は時紀の気持ちを自分に向けることでした。愛に飢えていた明日菜は、自分よりも弱い時紀に優しく接し、愛しているように見せることで自分に依存させ、愛され続けようとしていたのでした。
正しい愛の形を求めて上手くいかなかった真帆と功。愛が分からないから身体だけの関係でいた時紀と透子。正しくなくて構わないから永遠の愛を望んだ明日菜。人の心がなさすぎる対比ですね……。
明日菜が時紀の特別であり続けるために身体を許していた透子の未来の姿に思えてしまい、こちらのルートでも胃痛に悩まされました。
酷い話ではありますが、生存戦略としてそうするしかなかったのを誰が責められるでしょうか。というか責めるくらいなら愛してやってくれ……という気持ちに。
きっと正しくはないけれど、正しさだけじゃ生きられない。正しくなくちゃダメなのか?というところにスポットを当てた話が、主人公より長く生きているヒロインとの話で展開されたのはなかなかに重かったです。
明日菜の「自分が与え、見返りとしてのを得る」という思惑を知った上で、時紀が自分の意志で彼女の下に向かってルートが終わるのは色々と考えさせられました。

雪緒ルート

こちらのルートには時紀が屋上に足を運び、雪緒がそこから飛び降りようとしているのを目撃するところから始まります。
自分には感情がない、生きていても意味がないと語り、セックスについても気持ちいいということだけが真実だと言い放つ様はまるで時紀の鏡移しです。
さて、この雪緒に好意を寄せるのは時紀の妹の恵美梨。雪緒は恵美梨の告白を激しく拒絶し、恵美梨は泣きながら去ります。これによって時紀は雪緒の様子が普段と明らかに違うことに気付きます。
後に時紀は雪緒は弟同然に可愛がっていた愛犬が亡くなったトラウマから、大切な存在を作ることを恐れていたことを知ります。これが彼女が「生きていても意味がない」という理由でした。
雪緒の大切なものを失うことが怖い、傷付きたくないという想いを聞いた時紀は心中を提案します。ここで無責任に「自分がずっと愛してやる」などと言わないところは実に彼らしいです。
この心中は失敗し、運び込まれた病院での二人の会話で終わるわけですが、その内容は「どれだけ怖くても生きていくしかない」というもの。二人のことを心配する恵美梨によって、自分たちが死ぬこともまた残された大切な人たちを苦しませてしまうということに気付かされるのです。「失うことを恐れながら生きていくしかない」という諦念と「永遠の愛の否定」で終わるのは非常に苦しかったです。
ラストシーンのBGMのタイトル「それでも誰かを好きになる」が重くのしかかってきます。(雪緒ルートに限らず流れはしますが。)

透子ルート

身体だけの関係で良かったはずなの二人。いつしか時紀の心が欲しくなっていた透子。透子に特別な想いを抱き始めているがその正体が分からない時紀。
そんな想いから逃げるべく、身体だけの関係に戻ろうと必死に身体を重ねるけれど、快楽に呑まれることさえできなくなっていたシーンではこちらの心が痛みました。それができないのが何よりの証拠だと早く気付いてくれ……。
気まずさからか透子は学校に来なくなってしまい、時紀も透子がいない学校には行く意味がないと退学を考え始めます。もうそれは答え出てるだろうがよ……。
そうして正体不明の気持ちだけを膨らませていた時紀のもとに、ずっと連絡の着かなかった透子から「駅前の歩道橋から飛び降りる」という内容のメールが届きます。時紀が慌てて駆け付けるとそこには透子の姿が。透子はしのぶにそこで待っていれば時紀が来るから待っていたと言い、またメールもしのぶが送ったことが発覚します。
メールが嘘だったことに安堵する時紀は透子を抱きしめ、初めて服を着たままのキスをして物語は終わります。
透子を抱き締めキスをした時紀は、愛を囁くことはしませんでした。
プレイヤーが読むことができたのはそこまでというだけで、その後行為に及んだ可能性も、愛の告白をした可能性も、別れ話をした可能性も、帰り道に車に撥ねられた可能性も全て、100%の否定はできません。ですが、ラストシーンのその瞬間だけは、愛が何かは分からないまま、それでも透子を抱き締めたい、唇を重ねたい、と言う気持ちがそこにあったことだけは確かなのです。
ありもしない永遠ではなく、今この瞬間の気持ちと初めてちゃんと向き合って終わったこのエンディングが僕は大好きです。
他のヒロインのルートを透子のことを思いながら胃薬を飲みつつ、このエンディングを最後に持ってきてよかったなぁという気持ちでいっぱいです。

全 True / Bad ED の結び

各ルートの題材が補完し合った素晴らしい作品でした。

最後に

こちらは僕がこの作品を知るきっかけになった曲です。
この曲がなければ作品を知ることもプレイすることも、そしてこのnoteを書くこともなかったのではないかと思います。
僕のこのnoteをきっかけに1人でも多くの方に聴いていただけたら、素敵な作品に出合わせてくれたふにゃっち(@yakinch)さんへの恩返しになるのではないかと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

それでも誰かを好きになる
気違いみたいなやりかたで
なんとなく今日を生き延びる

天使のいない12月 - yakinch


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