少し高い歯ブラシを買った

歯ブラシは毛先が開いてきたら交換時期というのは、世間では常識だろう。
でも、その常識の意味を知らずに生きてきたから、毛先が開いても歯ブラシを使い続けていた。

何ヶ月使い続けたかは覚えてない。多分半年は経過している。
歯ブラシの買い置きがなくなったことに気づいていたけど、面倒で放置していた。
一応断っておくけど、歯磨き自体は毎日している。

先日、歯磨きをするときに歯ブラシを眺めてみた。
ブラシの外側は完全に開き切ってしまい、歯の表面を撫でるだけの機能しかなくなっていた。
そして、ブラシの中央は毛が開き、絡まり、潰れていた。
世間の常識を無視した私の行動により、歯ブラシは無惨な姿になり、死んでしまっていた。
つまり、殺したということだ。

毛先が開いた程度で捨てていれば、それは単なる交換で、鼻をかんだティッシュをゴミ箱に捨てるような、人間の生活に当たり前なものとして消費されていたはずだ。
しかし、捨てていなかった挙句に歯ブラシを殺してしまった。
犯した罪の意識が背中を伝った。

「毛先が開いたら交換する」ところまでしか知らなかったんだよ。
交換しない先には、死が待っているなんて、知らなかった。
少し考えれば当たり前な話だけど、気づいていなかった。
殺された側にしたら、こっちが知らないことなんて関係ないけど、言い訳と反省の気持ちだけが頭の中を巡っていた。

二度と歯ブラシを殺したくない。
こんな気持ちになりたくない。

色々考えたんだけど、一番有効なのが歯磨きの価値を自分の中で上げることによって興味を増加させる方法だった。
好きなものに対しては詳しくなれる、ヲタクの特性を利用する。
端的に換言すると、高い歯ブラシを買う。

早速ドラッグストアに向かった。
一番高い歯ブラシは電動歯ブラシだった。
電動歯ブラシを知ってしまうと、自分の手で磨く感覚が無くなってしまうような気がする。
人間の温かみがまだ必要な部分だと思うから、電動歯ブラシは却下。

それから高いものを見ていって、300円ぐらいする歯ブラシに行き当たった。
歯ブラシのヘッドは小さく、簡単にダメになりそうな頼りない見た目をしていた。
力も入れづらそうだ。

力を入れすぎると音が鳴るという機能が搭載されていた。
よく分からないけど、独自の機能というのはかっこいい。
そういえば歯ブラシって力を入れすぎてはダメだというのも常識だったな。
しかし、その常識は無視して生きてきたけど、この常識を守るとどうなるんだろうか。
とてつもなく興味が沸いたので、この歯ブラシを買った。
値段も300円を超えている。歯ブラシなんて買おうと思えば100円で買えるし、今までそういう歯ブラシを使っていたから、これはとてつもなく高い歯ブラシといえる。

家に帰って、早速開封した。
持ち手の部分が柔らかくなっていて、その部分が一定以上しなると、プラスチック部品が折れ曲がって音を立てる仕組みになっている。すごい。
使ってみると、柔らかい磨き心地と適度なヘッドの小ささにより、とてつもなく良く磨ける。
磨いてる際に音を出さないようにするアトラクション要素もたまらない。

これが高い歯ブラシの世界か。また一つ知ってしまった。もう安いのには戻れない。
これで二度と歯ブラシを殺すことはないだろうと、安心した。
戒めとして、死んだ歯ブラシは掃除用として残しておくことにしました。

ここで一曲。

Shiggy jr. - Sun is coming up




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