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残暑見舞いとお便り

 幼稚園の頃から、暑中見舞いを書いていた(書かされていた)。母親は宛名書きのルールや文字を丁寧に書くことに厳しく、たった一枚、たった一言書くだけなのに何時間もかかった記憶がある。幼い頃の私は完璧主義だったので余計に時間がかかっていたのかもしれない。毎年ぐったりしながら投函していた葉書も、小学校高学年になる頃には自分から出したいと思うようになっていた。たぶんそれは自分の絵を葉書にすることを覚えたからだと思う。少し話がそれるけど、小学生の頃、絵の上手い子はクラスのヒーローだったし、絵が上手いだけで友達ができていたような気がする。なんて素晴らしい世界。

 中学、高校と進学して、母親に催促されなくなっても私は暑中見舞いを出し続けた。小学校の時の担任の先生とか同級生とか、中には携帯で連絡は取らないけど手紙や葉書のやり取りだけはしている友達もいた。大人になるにつれてだらしない性格になった私はお盆までに葉書をかけなくなって、毎年残暑見舞いを出すようになった。8月中旬で残暑って、まだまだ暑すぎると思うけどね。自分で絵を描いて、家庭用プリンターで複製して、そこに5行くらい挨拶を添えて投函した。

 子どもの頃あれほど嫌だった葉書を書く時間は、今は嫌なことから逃避するための装置のようになっていることに気がついた。目の前にある問題から逃げるために、気を紛らわせるために、便りを書くのはちょうどいい。特別な用がなくても手紙を書いていいし、実際何か伝えたいことがあって手紙をしたためたことはない。ただ文字を書きたいからとか、そんな理由で書いてしまう。本当は現実逃避の手段だけど「かわいいレターセットを見つけたので」とかさらっと嘘もついちゃう。悪いよね。

 大学三年生の夏、就活とかインターンとか将来のビジョンとか、そんなことを耳にするのはもう飽きたし、本当に嫌いだ。やめてくれ〜〜という思いでせっせと残暑見舞いを用意し、さらに手紙まで書いてしまった。切手の値段がいつの間にやら葉書は63円、手紙は84円になっていて驚いた。郵便局で気に入った切手を2シートも買ってしまった。切手のデザインは局の仕入れ担当の人が選んでいるらしいのでセンスの良い郵便局を見つけたらぜひ教えて欲しい。

 先週、えいや!と書いた手紙に今朝返信が来ていた。小学校で2年間担任だったA先生だった。先生は相変わらず字が綺麗で力強くて、やたらと明るい文面だった。私は今でもかわいい教え子でいられているかな。がんばれと応援してもらえる立場でよかったな。やっぱり手紙は嬉しいな。今日で8月がおわる。9月にぴったりな葡萄柄のレターセットを買った。

2020残暑見舞い


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