劇場版おっさんずラブ_マスター講座__6_

劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD 感想まとめ【S11:感情が交錯するスタートミーティング】

■各キャラクターの感情の交差点

 劇場版の中で好きなシーンを選ぶとしたら、その中のひとつに間違いなく入るのがこのGenius7のスタートミーティングである。
 プロジェクトチームを始めるにあたり、社員を一堂に集めお披露目するといういかにもコメディでリアリティの薄い場面にもかかわらず、そうした違和感を感じさせないテンポの良さ。そしてなによりも第二営業所の面々、本社の狸穴、牧をはじめとするGenius7が揃うこのシーンは、各キャラクターの感情が非常に見ごたえあるシーンとなっている。

 特にいつも注目してしまうのは、春田の牧に対する感情の揺れと嫉妬だ。本社に異動し、会長鳴り物入りのプロジェクトチームに抜擢された牧の姿は、おそらく春田がそれまで見たことが無かった彼の一面だったに違いない。営業所の頃に後輩として接していたそれとも違えば、上海・香港に赴任していたときの恋人としての素顔とも異なる。舞台に上がる牧に対する「なんで牧が」という春田の一言には、営業所という自分と同じ世界にいた、よく知った後輩が遠くに行ってしまう戸惑いと、それ以上に怒りが見える。

 そして、このシーンで春田同様に目が行くのが、ジャスティスと武川である。
 ジャスティスは何かをはっきりと口にするわけではないものの、春田の態度が牧にだけ他の人と異なっていることにこの時点で気が付いている(ジャスティスは、外見では明るく振る舞いながらも、視線はいつも周りのことをよく見ていて、誰かを傷つけないように、また自分も傷付かないように守りに入っている。この繊細なお芝居を見るたびに、志尊淳の上手さを思い知る。)。
 一方、武川は牧の「100万人の笑顔が溢れる街づくり」という言葉に明確な違和感を露わにする。「牧からこんな夢の話、聞いたことあったか?」「……いえ」と言葉を交わす武川と春田はの反応は「僕らとは別世界って感じ」「牧くんってエリートだったわね」と自分たちの世界と線を引く営業所の面々とは異なっている。もちろん、あのような舞台で発表する若手の夢が、本人にとってどこまで本音なのかは分からない。組織目標を体よく言わされているだけなのかもしれないし、牧はそうした事情を把握したうえで建前を言える程度のエリートだとは思う。ただ、武川は牧のことを入社前から知っており、しかも昔の恋人である。春田にとっても牧はもともと可愛い後輩で、今は他でもない恋人である。二人は牧のプライベートを知っているからこそ、「夢」という一見すると建前から離れた、私的な意味を感じる言葉を使っていながらも、そこに自分の知らない牧がいることに焦りすら感じるのである。あれだけの関係を築いてきた自分が、大切な彼の「夢」を知らなかったという戸惑い。

 このシーンラストでの各キャラクターの表情変化は、劇場版でも特に芝居の見ごたえがある瞬間のひとつだと思う。狸穴と固い握手を交わし、微笑む牧。それを見て嫉妬する春田の姿。さらに、そんな春田と牧の関係に気付くジャスティス。春田の牧への強い想いを改めて知り、表情が陰る黒澤。
 恋人として仲を深めていったがゆえに、牧は春田との関係に安心感を得るとともに、仕事に打ち込めるようになった。ただ、その関係性を絶対壊したくないという執着が、プライベート以外では春田と距離を取ろうとする一因となった。
 一方で、春田は牧のことが大好きだとどんどん愛が深くなっていった。だけど、だからこそ自分の知らない牧がいることに戸惑いを覚え、嫉妬さえするようになったのかもしれない。
 誰も一言も話していないのに、非常に雄弁なシーンである。このシーンを見るたびに、これからこのキャラクターたちの感情が、100分強かけてどのように移ろっていくのかに思いを馳せ、わくわくしてしまうのである。


◇個人的なみどころ

 Genius7として挨拶する牧に対し、満面の笑みを向ける福田アナ。福田アナにはピントが当たっていないのに、それでも分かる幸せそうなあの表情(笑)あの笑顔を見るたびに、自分と同じ人種が映画に出ている……! とこちらまで嬉しくなってしまう(笑)
 前述したように、ラストの各キャラクターの表情の移り変わりがこのシーン最大の見所だが、春田の嫉妬、ジャスティスの気付き、黒澤の悲しみのほか、カメラからはみ出ながらも本社に対する怒りが抑えられない武川も好きである。眞島さん、いつもお芝居が熱いので見ていて飽きない。武川(いやむしろ政宗)は、今でもやっぱり牧が大切だよね、とも思う。

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