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楽しい時間が過ぎる早さは風のようね。

学生時代にバイトをしていた場所へ、昨日二年ぶりに遊びに行った。

お店へ行くまでの道のりが懐かしくて、自然と笑顔になった。
歩道の幅がちょっと広くなっていたり、新しいお店が出来ていたり。
あの頃にもあったお店がまだ続いていたり。

けど一番嬉しかったのは、あの頃バイト先まで通っていた道から見える景色が、変わらずにあったことだった。
それを知って、私はマスクの下で笑った。

バイト先が入ってる閑散としたビルの中には、よく通っていたスーパーがある。
たまにお昼ご飯をそこへ買いに行って、ピーク時を乗り越えた自分へのご褒美にシュークリームやアイスなんかを買ったりしていた。
今もまだ残ってるのかな、と思って立ち寄ったら、変わらず残っていてほっとした。

お店に近づくごとに、心臓がドキドキした。
当時はほぼ毎日のように通っていた道のりなのに、昨日は緊張していたみたい。

お店に着いてちらっと顔を出したら、平日の水曜日なのにほぼ満席。
私がいた頃の水曜日は比較的落ち着いていたから、あんなに混み合っててびっくりした。
多分周辺のお店が閉まってるから、開いてるこのお店にお客さんが集中したんだろうなぁ。

忙しいかな、大丈夫かな。
そんな風に思って立ってたら、当時一緒に働いていた大好きなパートさんが気付いてくれて、手を振ってくれた。
嬉しくて私も会釈してから手を振れば、「中に入って」と言ってくれた。

カウンターに座らせてもらって、アメリカンとシナモントーストを注文した。
ふわっと香る店内の香りや、聞こえてくる音、見える光景は全く変わっていない。
トースターの音だったり、コーヒーの香りもそのままで、懐かしさと安心と嬉しさが、じわじわとやってきた。

けど変わっているところももちろんあって、今流行りのウーバーイーツを導入していたり、電子マネー・クレジット決済が可能になっていた。
昔は紙の伝票だったけど、今はPOSになったようで、変化だなぁ、としみじみした。

途中私がまだいた頃の店長がやってきた。
ビル内に入ってるマッサージに、休みの日は来てるらしく、二週に一度はここに顔を出してるみたい。
結構なかなかな頻度だった。
けど分かるよ。だってここ、居心地がいいもんね。
元々パートさんから私が来ることを聞いていた店長は、マッサージの予定と重なっていたこともあってお店に来てくれたらしい。

「元気?」
「元気ですよ。店長はどうですか?」
「うん、俺も元気」
「そっかぁ、良かったです」

なんて常套句な挨拶を交わす。
この感じも変わらなくて、店長のテンションが一定な感じ、相変わらずだなぁと思いながらコーヒーを飲んだ。

「いらっしゃいませ!」
この声が聞こえてくると、私も一緒に言いそうになった。
続けて「お好きなお席へどうぞ」と喉元まで来て、思わずシナモントーストを口に含んだ。
三年半働いたあの月日は、結構しっかり私の中に残っているようだった。
染み付いた記憶や癖というのは、そうそう消えたりしないらしい。

バタバタと忙しなく動き回るパートさんたちや、積み重なっていく食洗機周りの洗い物を見ると、少しだけうずうず。
手伝いたい気持ちになって、けど我慢した。
だって今の私は従業員ではなくお客さんなのだ。一人私服の人間が急に食洗機の前に立ったら、違和感過ぎて浮いてしまう。お店的にもだいぶ良くない。
だから我慢して、少しだけぬるくなったコーヒーを飲んだ。

聞けば当時は平日の朝も昼も三人体制で回していたけど、今は人員不足で二人体制のようだ。
料理ができるタイミングにお会計が来て、重なるように来店が……という光景を見ていると、二人はきついな、と正直思った。
最低でもあの忙しさだと三人は欲しい。だけど今はどうにもならないのだとか。
内情は外から見るより大変だった。

手伝うことも出来ないお客な私は、カウンターに座って眺めるしかない。
その時にふと思い出した。
暇な時間より忙しなくて、目が回りそうなお店の状態の方が私は好きだったことを。
多分従業員が一団となって動いていて、みんな頑張ってる!私も頑張ろう!的な感覚になるのが、私はどうにも好きなんだろう。
忙しい時こそ、「やばいね!」ってめちゃくちゃ笑ってた。

四時くらいになってようやく少し落ち着いた頃に、「二杯目どう?」と誘われて、お言葉に甘えた。
ソーサーに乗ったコーヒーを目の前に置かれる様子に、今更ながらなことを私は思う。
二年前まではここの店員だった私は、卒業を機に辞めて社会人になって、今やお客さんになった。
変な感じだった。けどちょっと新鮮だった。


パートさんが五時に上がるタイミングで、夜のシフト担当の学生さんがやってきた。
知っている顔が見えて、相手も覚えてくれていて、嬉しかったなぁ。
「すごい優しかったのを覚えてる」
やめろやい、照れるだろ、って内心思いながら「いやいやそんな」と口でも照れさを隠しきれなかった。
褒められることは未だに恥ずかしくて、慣れなくて、照れてしまう。

そこから閉店間際までお店の中でパートさんと店長とお話しした。
あの子はどこどこに就職が決まって働いてるよ、だとか。
◯◯くんはここを辞めてから、今度は◯◯店舗に居るよ、だとか。
◯◯さんは出産を機に辞めたなぁ、だとか。
そうなんだ!と思うことがたくさんあって、いろんな話を聞けて楽しかった。
けどあんなに遅くまで話せると思わなかったから、引き止めてしまって申し訳ないなぁという思いもありつつ。
だけどやっぱり、久しぶりにたくさん話せて嬉しかった。


楽しい時間は本当にあっという間。
時間が秒単位で過ぎていく感覚で、気づけば二時間三時間が駆け抜けるように経過していく。
そうすれば当然別れもあって、「またね」「今日はありがとう」「また遊びに行きます」と話す頃には、ちょっとしんみりした。

だけど寂しがることはないのだ。と、一晩経った今日思う。
だってまた会いにいけばいい。
会いに行こうと思って足を動かせば、会える場所があるんだから。

そんな場所があることは、とても尊くて、とても恵まれてる。
あの場所で三年間半ほど働けたことは、私にとって大きな財産になった。

また近いうちに遊びに行こうと思う。
今度は、そうだなぁ。お店の売りのホットケーキを食べに行こうかな。


#日記
#懐かしかった思い出
#戻って来れる場所
#今度は家族で遊びに行きたいな

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