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ひとりよがりの「好き」を確信に変えた「映画:フィッシュマンズ」のクラウドファンディング

現在全国の映画館で上映されている『映画:フィッシュマンズ』。プロジェクトの発起人であり、プロデューサーである坂井利帆さんにお話を聞きました。

現実離れしていたクラウドファンディング

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──まず、プロジェクトを立ち上げる前のことを教えてください。普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

ある外資系チャンネルで番組制作プロデューサーをしていました。また海外配給作品の宣伝も担当しています。このため、映像や映画を作るためにどの程度の予算や時間が必要かということは普通の人よりはわかっている状態ではありました。けれど、映画そのものを作ったことはなかったので、その点については今回の映画が初めてと言って良いと思います。

──クラウドファンディングにはどんなイメージを持っていましたか?

当時は『カメラを止めるな!』がクラウドファンディング発のヒット作だったので、その存在は知っていました。今の時代にあっていてとても美しいなと思う一方で、SNSを運用した経験も、イベントを企画した経験もなかったので、自分がやるというイメージをなかなか持てない、現実離れした存在でもありました。

フィッシュマンズとの出会い

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(プロジェクトページより引用)


──フィッシュマンズとの出会いも聞かせていただきたいです。

フィッシュマンズがデビューしたのは19991年4月21日のことですが、その年の夏にTVKの生番組に出演しているのをたまたま見かけて彼らの音楽に魅了されて、新宿のアルタ前で行われた無料ライブに行ったのが出会いでした。そのライブからなので、デビュー当時からの長いファンと言っていいと思います。

──ということは、はじめはファンだったのですね。

そうです。当時は学生だったのですが、ライブに通っているうちに雑誌にライブレポートを書いてみないかと持ちかけられて、メンバーにインタビューさせてもらう機会を得ました。そのような経緯でメンバーの茂木欣一さんとも友人として親しくなり、その後もずっとファンとして応援しておりました。

──そうだったんですね。それでは、映画制作をする時にも相談を?

そうです。2018年に映画をやりたいと思って相談をしたのですが、その時に「いいかもね」と言っていただいたのがきっかけでこの『映画:フィッシュマンズ』の制作が始まりました。

──なるほど。映画を自分自身が制作しようと思ったのはどうしてなのでしょうか。

まだ多くの人が知らない時期からずっとこのバンドを見てきて、メンバーの葛藤も間近で見てきました。そういう経緯を当時から知っている数少ないファンの一人であり、自分が映像に関わっていることもあり、フィッシュマンズを映像に残すべきだと思ったのです。この私の熱い思いをを背負った監督は大変そうでしたけどね。

クラウドファンディングが必要になった理由

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──さきほど、クラウドファンディングを行うのは現実離れしていたというお話がありました。それでもクラウドファンディングをやってみようと思ったきっかけは何なのでしょうか。

映像制作の経験があったことから、音楽ドキュメンタリーでいいものを作るためにはコストがかかることはわかっていました。というのも、映画の中で楽曲を使用するには、原盤権を持っているレコード会社に使用料を払わないといけないのです。もし20曲の楽曲を使用したいとなれば、通常だと数千万円の使用料の支払いが必要でした。それは途方もない金額でした。さらにお金がかかるのは楽曲使用だけではありません。撮影を4Kで行いたいと考えたので、その機材を用意したりするのにもたくさんの費用が必要でした。それで、「やるしかない!」とクラウドファンディングの実施を決意したのです。

──実際にクラウドファンディングをやってみて、オペレーションはいかがでしたか?

SNSのアカウントを立ち上げて告知をしたり、同時進行で進んでいた撮影の様子をアップデートに書いたりすると、反応があるのがよくわかりました。管理画面から何に反応してくれているかや、何が支援につながっているかを見ることができたので、予測をたてながらシェアする情報を決めることができました。

──例えばどんな情報をシェアすると良い反応がありましたか?

映画でも使用した私の膨大なコレクションの中から過去の映像を集めたものを支援をしてくれた人だけ限定公開でアップしたり、Twitterに懐かしい写真をあげてみたりすると良い反応が返ってきました。

──ファンの方が支援しているんですものね。他にやってみた施策はありますか?

SNSなどのウェブ上の施策だけでなく、レコード屋さんにチラシを置きに行ったり、プレスリリースを出すなどの草の根活動も並行して行っていました。管理画面の情報ではそれぞれに反応があったので、やってみてよかったなと思います。

集めるお金とリワードのバランス

──クラウドファンディングを行っていて苦労した点があれば聞きたいです。

映画制作のために集めたお金と、リワードの内容のバランスです。なるべく映画制作にお金をかけて良い作品にしたいという思いがある一方で、せっかく支援してくれたのだからできるだけ豪華なリワードを差し上げたいという思いもありました。また、リワードのサイズが大きいものになってしまい送料が膨れ上がってしまったり、映画の公開前までに届けるリワードと、映画公開後に届けるリワードがそれぞれあることを想定していなかったので、送料が二度かかってしまったりと、不慣れだからこそ出てしまう出費があったのも事実です。それでも、クラウドファンディングでの支援がなければ実現しなかった映画なので、リワードを豪華にして赤字になってしまったとしてもいいという気持ちです。そういう不勉強への後悔はありますが、クラウドファンディングをやったことへの後悔はひとつもありません。

ひとりよがりから確信へ

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(プロジェクトページのコレクターコメントより引用)

──実は私もフィッシュマンズを聞いて青春時代を過ごしました。プロジェクトを見ていると、そういうファンの人たちが支援をする時にたくさんコメントを残されていますね。

そうなんです。立ち上げてみるまでは、いちファンの私がこの映画をつくること自体を受け入れてもらえるのだろうかという不安もありました。けれど、私がファンだったからこそ、一緒に応援してくれる熱量を支援する時のコメントから感じました。今振り返ってみれば、いちファンだからこそ応援しやすい要素になったのかもしれません。

──このプロジェクトを通じて久しぶりの再会なんていうのもありそうですね。

ありました!高校生の時一緒にライブを見に行って仲良くなったお姉さんたちと再会したり、面識のないファンの方とも情報交換をすることもありました。支援のコメントやメッセージでフィッシュマンズとの出会いや思いについて書いてくださる方もいて、そういう言葉がこの映画を作る原動力にもなりました。

──プロジェクトに支援が集まるにつれて、自信もついていったのでしょうか。

というよりも、ひとりよがりが確信に変わっていったとでも言いましょうか。はじめはいちファンの熱い気持ちとコレクションだったものが、たくさんの人の思いを乗せて世の中に出すべき映画であるという確信に変わっていったクラウドファンディングでした。

最高の映画ができた

──映画が完成して動員数も記録的です。今のお気持ちはいかがですか?

めっちゃいい映画ができたと思っています。それはもちろん作ってくれた監督や制作スタッフの実力と努力もありますが、クラウドファンディングによって立ち上がった作品であることも大きいと思っています。クラウドファンディングでたくさんの人が支援してくれたことが監督に伝わって、常にファンの方に頂いたお金だからそれに恥じない作品を、喜んでいただける作品をと、という熱量を持って制作してくれたからです。それは同時にプレッシャーにもなったーことは否定できませんが、おかげでとてもいい作品になりました。

──これからクラウドファンディングをやろうとする人に伝えたいことはありますか?

クラウドファンディングをやろうとしている人には、しっかりとした気持ちを持っていれば必ず応援してくれる人は現れる、逆に言えば中途半端な気持ちではできないよ、ということを伝えたいです。そして、クラウドファンディングの真価は集まった金額や人数だけではない。自分が立ち上げた企画が支援によって裏付けされていく、熱量を帯びていく。そのプロセスが作品を強いものにしてくれるのです。

(文:出川 光)

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