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クラウドファンディングの可能性を広げる取り組み「フェロー」、始めます!

映画制作からまちづくりまで、これまで様々な全国の取り組みを応援してきたMOTION GALLERY。2024年夏、「フェロー」というメンバーシップを本格的に開始します。

この取り組みは、各業界で活躍している人たちと一緒に、”ちゃんとクリエイティブ”なクラウドファンディングの輪を更に拡げながら、 その可能性を探り、一緒にプロジェクトを発掘していくというもの。MOTION GALLERYの立ち上げから13年、社会も大きく変わり、クラウドファンディングが一般的になった今、どんなアクションを起こせるでしょうか。この記事では、MOTION GALLERY代表の大高が、クラウドファンディングの今そしてこれからについて、フェローの小柴美保さんと小野裕之さんと一緒に探ります。

インタビューの会場は、世田谷区池尻にあるIID。廃校となった中学校校舎を再生したこの施設のリニューアルも手がけるお二人は、どんな未来を見つめているのでしょうか。

プロフィール
小野裕之 
1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部卒。ベンチャー企業を経て2012年、ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズを共同創業。そのネットワークをいかし、16年に東京の伝統工芸の技術をいかしたジュエリーブランド「SIRI SIRI」17年に秋田の米店や農家と組んだ「おむすびスタンドANDON」、20年に発酵食品の専門店「発酵デパートメント」をそれぞれのパートナーとともに創業。20年春には、マスターリース運営会社として株式会社散歩社を創業し、現代版商店街「BONUS TRACK」を下北線路街にて開業。同施設でグッドデザイン賞ベスト100(21年)。その他、いくつかのブランドや店舗に出資、経営、アドバイザリー参画や事業売却を経験。目下、世田谷区にある旧池尻中学校(旧世田谷ものづくり学校)を創業支援型複合施設にリニューアルすべく奔走中。

小柴美保
1981年生まれ。京都大学法学部卒。シティーグループ証券入社後、グローバルマーケッツ部にて日本株の取り扱いに従事。ビジョンを持った社会創造の必要性を感じ2011年に退社し、2012年にIDEE創業者の黒崎輝男たちとシンクタンク MIRAI-INSTITUTE株式会社を設立、「これからの働き方」の実証の場としてシェアオフィス「MIDORI.so」を立ち上げた。現在都内に中目黒、馬喰横山、永田町の3拠点を運営し、働くにまつわるコンサルや書籍事業も行っている。

クラウドファンディング業界はモラルハザード期!?

大高:
改めまして、フェローを引き受けてくれてありがとうございます! お二人にはMOTION GALLERYを利用していただいたこともあるし、ずっと近い場所にいる感じもあって。フェローを始めるならぜひお願いしたいなと思って声をかけさせてもらいました。

MOTION GALLERYを立ち上げた2011年からだいぶクラウドファンディング業界の状況も変わってきてるなと感じるんですが、お二人は今どんなふうに見てますか?

小野:
プラットフォームが巨大化する上では絶対に避けて通れない、モラルハザード期になっているのでは?と感じることがありますね。ただそれはマスに向かっているってことだし、業界全体としてはいいことだと思ってるかな。

大高:
この前、飲み屋に行ったら、合コンしてるっぽい雰囲気の席から「クラウドファンディング」というワードが聞こえてきてびっくりして。気になって聞いてたら、「終電なくなったらタクシー代をクラウドファンディングしよう!」という内容で。複雑な気持ちになっちゃいましたが、それが業界が広がるってことでもあるのか。

小野:
流通金額を1,000億円とか1兆円にする時に、避けては通れないフェーズだよね。1個1個のプロジェクトが大型化していくために、それぞれのプラットフォームがどう支援できるかを考えた方がいいかなと思ってる。1案件の巨大化じゃなくても、100万のプロジェクトを1万件とか100万件生むと考えてもいい。とにかくユーザーを増やさないといけないよね。

小柴:
クラウドファンディングは随分一般的になったけど、MOTION GALLERYのユーザーが増えてきた感じはありますか?

大高:
コロナ禍で「ミニシアター・エイド基金」や「ブックストア・エイド基金」、「小劇場エイド基金」、「社会彫刻家基金」をやったので、文化芸術領域ではすごく広がった。ただ、僕たちが定義している「クリエイティビティ」は、表現活動に止まるものではなくて。それこそ新旧のIIDって、当たり前だけどめちゃくちゃクリエイティブじゃないですか。場所づくりとかお店づくりとか、ストーリーのある活動をちゃんと応援
したい。ずっと「クリエイティブな活動支援したい」って言ってるんだけど、広い意味でのクリエイティブだよってもっと伝えたいかな。

だからMOTION GALLERYをもう少し多角的な社会をつくっている場所として機能させたいんだけど、当然それは僕ら自身の知識だけでは成立しないから、それぞれの業界でプロフェッショナルとして活動している人たちの知見が必要だって思ったんです。コミュニティをつくりつつ、働き方とか仕事をつくれたら面白いんじゃないかなって。

小野:
今、量も質も両方必要な時期だから、分けて話すことが大事かもしれない。プラットフォーマーが健全に成長していくにはコンテンツの質も大事だけど、みんながメリットを享受するためには量も大事。個人的な興味は質の方にあるけど、実は業界の外から見てると判断基準がわからないんだよね。批評的であることは結構大事だと思う。そして正しさを語る上では、正しくない方についても語らないといけない。

クラウドファンディングの業界自体、第三者視点が必要だと思います。それぞれのプラットフォームの考えがあんまり語られないから、違いがわからない。たとえば「greenz.jp」がソーシャルやNPO領域で担っていた第三者的に取材するメディアの存在みたいなものが、クラウドファンディングでも必要なんだろうなって。

小柴:
最近投資型のクラウドファンディングも多くないですか?

大高:
増えましたね。ただ、投資型だと永続性がある程度必要になってきます。なので不動産とは相性がいいけど、映画などのクリエイティブ領域、社会課題解決を目指すソーシャルビジネスだと難しいんですよね。実際不動産のREITぽい活用しかされてない印象かなあ。

小野:
中間業者などサポート役が入りやすくなるといいなとも思うかな。1案件を大型化させられたら、サポート役にも金銭的なベネフィットが手元にしっかり残る形にできる。フェローの取り組みにも、似たところがある感じはしますね。

大高:
そうですね。いいプロジェクトの数と規模を増やしたいと思っているけど、1案件の平均的な規模を大きくしていければ、そこに関わってアクティブに活動できるプレイヤーも増えてくるから、そこから更に何か違うことができるかもしれない。フェローと一緒に、1億円集まるプロジェクトとかやりたいな。

プラットフォームのあるべき姿を目指して

小柴:
頑張りすぎなくても、1億円集められたら嬉しいよね。クラウドファンディングって、実はすごい頑張るじゃん。頑張ってやっぱりめちゃめちゃ嫌われるみたいなときもある。何度もすいませんって謝ったりもして。

大高:
ミニシアター・エイド基金は、発起人の一人として運営していたから、その大変さは起案者としても実感したところはある。自分でクラウドファンディングをやってみて、気づくこともありました。お2人はクラウドファンディングをどういうものとして捉えてますか?

小柴:
自分たちの力じゃどうしようもないけど、銀行みたいな巨大な資本にお願いしてお金を借りることでもない。それでもすごく意味があることを、共感によって成立するプロジェクトっていうイメージかな。

小野:
「稲とアガベ」っていう、秋田の男鹿の酒造メーカーが、立ち上げ時に理想的なクラウドファンディングの使い方をしていて。蔵主の岡住くんは元々、群馬県の土田酒造で委託醸造の形でお酒をつくっていたんだよね。300本とか1,000本とかつくって、毎回クラウドファンディングで売り切るということをやっていた。そうやってキャッシュフローと実績をつくりながら2年ぐらい続けて、クラウドファンディングで1万本売った実績を根拠に、公庫から協調融資を2億円引っ張ってきた。クラウドファンディングのフェーズを経てBtoBの資金調達に向かっていったのは、とても正しい使い方なんじゃないかな。

融資の相談に行った際に、「実績つくってください」って帰されるんじゃなくて、「まずクラウドファンディングやってください」って銀行が言ってくれるようになるといいよね。

小柴:
MOTION GALLERYの場合、まず映画の制作資金を募るプロジェクトを応援していたというのはすごく根本な気がしますが。

大高:
そうですね。投融資などのビジネスマネーは、売り上げのためだけにやっているわけではない活動と一番ハレーションが起きやすいと思っていて。「稲とアガベ」は、美味しいものと地域振興と売り上げ、全部が成立できると証明して、銀行からの融資が決まった事例ですよね。そういうふうに、その活動のビジョンとマネーの背反するところをクラウドファンディングが接合し、そしてプロジェクトが育っていくといいし、みんなでサポートし続けられると面白い。

小柴:
MOTION GALLERYはそういう根本をしっかりやってるプラットフォームだと思う。だからこそね、もっともっと跳ねてほしい!

小野:
これからより大きい旗を立てられるといいよね。少し厚かましさみたいなものもそこに加わってもよいかも。

小柴:
コロナ禍の時に、いち早く支援プログラムをやったのはすごいよね。強者ではなくて、資金が本当に必要な人たちに寄り添ってるっていうのがすごく重要だと思う。それがどこまで伝わってるんだろう。

小野:
結果として、わかる人だけにわかればいい、みたいになってしまっているものをどうするか、結構大事だと思う。ちゃんと説明していく必要があるというか。

ユーザー目線からすると、どのプラットフォームを選んだらいいかわかんないっていうのが正直なところ。このプラットフォームはこういう応援の仕方をしてくれますよっていう説明を、ちゃんとユーザー目線でしてくれる機能が必要だと思う。

小柴:
誰かにプラットフォームの違いを聞かれた時、おすすめする時に、フェローはしっかり説明できないといけないと思う。フェローに語ってもらえたらいいよね。そのためにも最近のMOTION GALLERYの動きがわかるといいな。

小野:
フェローと毎月トークイベントを企画するのもいいよね。

市民活動という意味での“パブリック”を支えていきたい

大高:
ところで、二人はなんでフェローを引き受けてくれたんですか?

小柴:
やっぱり、立ち上げの頃からずっと見てるから。私達もMIDORI.soのプロジェクトで利用させてもらいましたが、大高さんは、世の中をクラウドファンディングでどうしたいのかが明確。本来のクラウドファンディングのあるべき姿を見ている気がする。そこに共感しているっていうのが大きいですね。

資金がないけどプロジェクトをやりたい人がいた時に、コミュニティや市民の力を使ってどう実現するかというベースをずっと保ちながらやってると思います。いいことしてるんだからもっと前に出てほしいし、応援したいなっていつも思っています。

大高:
元々、公共性(パブリックネス)に強い関心があって。「公共」って、日本だと「お上」の意味になっちゃいますよね。でも本当は民主主義的には、「公」は公園などを意味するわけで。全員がそこに強制的に乗っかる必要はないんだけど、自分ひとりの勝手な思いじゃなくて、何人かの共感・共有があれば、それは「公」であると言えると思うんです。僕は、そういう意味での「公」の活動を、「公」で支援しようというのがクラウドファンディングだと考えています。

今は市場経済だけがグリーンライトを握っているから、お金が倍々に増えていく活動にしかリスクマネーが供給されなくなっていて。アメリカはまだグローバルでお金も回っているから、例えば実績がまだない若手の映画監督にすごい予算で撮らせて、そこからスターになった事例もあるけど、日本にはその余力がない。若手を育てるリスクマネーが供給されないんですよね。だからお金儲けとは違う、ビジョンや将来性という軸でみんなが支えていかないと、多様性や新しいジャンルが生まれなくなる。そういう活動を支えるのは、おそらくビジネスマネーじゃなくて、クラウドファンディングなんだと思います。MOTION GALLERYを通じて、市民活動という意味でのパブリックを支えていきたい。

小野:
そもそもクラウドファンディングのプラットフォームに色が必要なのかどうかは議論してみたいかな。
それぞれのプラットフォームに個性があることが、イコール集まる総額や質に転換されていないと、そのカラーの違いみたいなものが、ユーザーから見ると直接的なメリットにはなり得ないと思うので。手数料はプラットフォームにとって大事な収入源であると同時に、その個性を強化するために使う原資だとも思うし、クラウドファンディング自体のマーケットが大きくなると、初めての人がプロジェクト立ち上げる動機や支援する動機に繋がっていく。そういう好循環が必要だよね。

だから、業界の横ぐしの活動がないことをとても残念に思っています。第三者機関をつくる活動を、MOTION GALLERYの新しいキャンペーンとしてやるのもありかもしれない。フェローの個性も出せる形で一緒に動いて、クラウドファンディングを広げていけたらいいなって思います。

大高:
フェローでやってみたいこととか、MOTION GALLERYと一緒にやってみたいことって、他にもありますか?

小野:
創業塾やプロジェクトデザインスクール的なものはできそうですよね。新IIDでも駒沢大学の上期の授業を持つ予定で。150人ぐらいが受講する座学式の授業なんだけど、ゼミっぽい運営で。新IIDを見てもらって、ここでやった方がいい事業をプレゼンしてもらうみたいなことをやる予定です。こういう授業の中に、クラウドファンディングの要素もあっていいなと思いますね。

新IIDを、いろんな人が挑戦できる場に

大高:
お二人はどうしてこの場所を手がけることになったんですか? これから新IIDがどんな場所になるのかとても気になります。

小柴:
旧IIDとの出会いは、昔に遡ります。社会人になってしばらくした頃、働き方を変えたいなって思ってた時に、旧IIDでやってたスクーリング・パッド(※旧IIDで実施されていた、社会人が学べる学校。「デザインコミュニケーション学部」、「レストランビジネスデザイン学部」、「映画学部」などの学部があった)の3つの学部の中で「デザインコミュニケーション学部」に参加したんです。そこではサラリーマン時代に会ったことないようなただただ面白い人に出会って、それが新鮮で。MIDORI.soをやるきっかけになったのも、旧IIDでの黒崎さんとの出会いだったんだよね。

これから新IIDの2階がシェアオフィスになるんだけど、世田谷区としては創業支援をどんどん進めて欲しいという期待感があると思っています。スモールビジネスをしたい地元の人がきっとたくさんいるはずだから、そのあたりの支援がうまくできたらなって思っています。MOTION GALLERYとも相性いいはずなんですよね。

大高:
新しい働き方やワークスペースのあり方って、最近は変化があるんでしょうか。

小柴:
そこまで大きくは変わってないけれど、デスクワークだけが「働く」じゃないと思ってるから。オンラインでも働けるけど、ここに来て人に会って、全然どうでもいい雑談を最初にするみたいな、そういう時間の方が大事だなって。ここに誰が来ててとか、誰に会いに来てとか、そういうことがいつでも大事なんだろうなって感じてます。

新IIDではいろんな人が入り混じる場所を目指しています。デザイナーとかフリーランスとか、これから何かを始めたい人とか。小さいことに夢見ていたケーキ屋さんになろうと言うのでもいい。

小野:
僕もスクーリング・パッド卒業生です。greenzを初めいろんな事業に携わってきたけれど、いわゆるソーシャルビジネス支援疲れみたいなのもあって。そんな時、個人的には不動産ビジネスとソーシャルビジネスの親和性の高さに気づいたんですよね。

ソーシャルビジネスって、ほとんどが労働集約型のリアルビジネスで、いわゆる労働生産性でいうと高くはなりきらない業界。だからこそ、不動産とソーシャルはすごく親和性が高い。ソーシャルビジネスの人のほとんどが物件を借りてビジネスをするけれど、物件を持ってる人たちはいい街をつくったり、いい施設ができたりすることに先行投資したいと思っている。こういう駅から少し離れた場所って、消費の場というよりはむしろ社会課題の解決の場にしていかないと、場所のポテンシャルをいかしきれない、という側面もあるんだよね。

不動産のお金を、もうちょっと社会的なアクションに使うことを習慣化できるといいなと思ってる。地域貢献設備みたいなものーー渋谷ヒカリエの「8」とか、スクランブルスクエアの「QWS」とか。新IIDを通じて面白い不動産開発の事例をつくって、不動産業界自体のお金の流れが1%でも変われば、だいぶ大きなインパクトになると思う。新IIDを、市民活動の場とか、市民起業家の育成の場にしていきたい。

大高:
新IIDってアクセスはちょっと難しいじゃないですか。そこは何か工夫するんですか?

小野:
歩ける距離だと思うし、渋谷も目黒も世田谷も近いので、1回来てもらって愛着がわけばリピートしてもらえると逆に思うかな。

小柴:
前の旧IIDも、何となくみんなここが面白くて集まってた、みたいなのがあるから。スクーリング・パッドで来てたから、私も小野さんも、愛着があるんですよね。内沼さん(※バリューブックス、NUMABOOKS、本屋B&B、日記屋月日、BONUS TRACKなどを経営する内沼晋太郎さん。新IIDの運営にも携わる)もここでオフィスを借りていたし。

大高:
卒業生が戻ってきて運営するってことですね。原点回帰で、面白い未来をつくっていこうという感じがあっていいですね。新IIDから生まれるプロジェクトも楽しみだし、フェローの取り組みを一緒に広げていけたらと思っているので、これからもよろしくお願いします!

(編集・執筆:大高健志・梅本智子 写真:日比佳代子)



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