無償で薬をくれるおじさん
わたしが16歳の時の話です。
ビニール袋いっぱいの眠剤や精神薬をタダでくれるおじさんがいました。出会いはTwitterです。
おじさんとの待ち合わせはいつも新宿アルタ前。おじさんは黒い車に乗ってやって来ます。そして色々な種類の眠剤や精神薬がたくさん入ったビニール袋を手渡し、「今度はご飯でも行こうね」と言ってすぐに車に乗って帰って行きます。
わたしはおじさんと別れるとすぐにTwitterを開いてDMでお礼を言いました。お礼といっても、「たくさんくれてありがとう。また頂戴ね」といったナメた文章のみです。LINEは教えていませんでした。訊かれなかったので。
おじさんは精神科を巡回して薬をためるとわたしに連絡をして来ます。「薬結構あるからあげるよ。いつ空いてる?今度はご飯も行きたいな」
16歳のわたしはバカでアホで世間知らずで(今もだけど)、そして無敵でした。貞操観念も危機管理能力もこれっぽっちもありませんでした。街を一人で歩いてるときに援助交際を持ちかけてきたおじさんとそのままホテルに行くことも、TwitterのDMで援助交際を持ちかけてきた会ったこともないおじさんの家に行くことも、怖くなかったんです。随分頭の弱い子どもでした。
そんなめちゃくちゃだったわたしですが、この、「薬をタダでくれるおじさん」とはホテルどころかご飯すら行きませんでした。DMで何度も、「次はご飯も」「慣れてきたらでいいからホテルに行きたいな。薬の他にお小遣いもあげる」と言われていたけれど、毎回弱い頭をフル回転させ、何かしら理由をつけて薬だけタダでもらってすぐに帰っていました。
このおじさんの見た目がどうしても生理的に受け付けられなくてご飯すら行きたくなかったとかではありません。
このおじさんはわたしと少しずつ仲良くなって最終的には身体の関係になろうとしていたんだということは分かっていたけど、わたしは「無償で」与えてもらえることが嬉しかったんです。認めてもらえたような気持ちになっていました。だからこのおじさんよりも見た目が醜いおじさんとホテルに行くことはあっても、このおじさんには絶対に見返りを渡しませんでした。
わたしが貰っていたものはお金やブランド品などではなく精神薬だけど、他人から無償で与えてもらった初めての経験でした。この頃はいま以上に毎日精神薬ばかり飲んでいたので殆ど記憶がありません。でもこのおじさんのことはずっと忘れることはないと思います。
おじさんとの唯一の繋がりだったTwitterのアカウントは、援助交際や薬をくれる人を探してばかりいたので程なくして凍結されました。
もう二度と話すことも会うこともないけれど、おじさんまだ生きてるかな?身体が悪く、透析に通っていると言っていたからほんの少しだけ心配です。今も元気に、女子高生に手を出そうとネットの海のどこかで頑張っていたらいいな。犯罪だけど。おじさんあの時はタダで薬くれてありがとう。嬉しかったし、辛かった毎日をふわふわ生きられて救われました。あとちゃんと捕まれよ。
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